でも、これまではその方法が、アナログしかなかった。子どもたち全員から作品を回収して、教室の後ろに掲示する作業は労力がいりますから、すべての教科のすべての成果物でそれを実施することは現実的には難しかったんです。これは、教員の仕事がブラック化していく原因の1つでもありました。

 しかし、ICTを活用すると、シェア&他者承認は簡単にリアルタイムでできるようになります。また、子どもたちも、他の友達の作品や考えを見ることで自身の考えをブラッシュアップすることができるようになる。このような変化は、教室での学びの質を格段に進化させるものだと感じています。

 教育のICT活用に対して、「人間味がなくなって寂しい」というようなイメージを持つ人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。僕は逆に、今までよりもコミュニケーションが活性化する可能性が高いと思います。

―― なるほど。他の子の考えや回答を見るのは楽しそうです。また、良いフィードバックをし合うのは、デジタル・ネーティブ世代である子どもたちの、SNSコミュニケーション・リテラシーを高めていくためにも役立ちそうです。

拾いきれていなかった声を拾うことが可能に

蓑手:僕自身、授業にICTを活用することで、全員の考えを知ることができるようになり、「もしかしたら、実はこれまでの教室は、子どもたちにとって、平等じゃなかったのかもしれない」と気づきました

 つまり、教室には、授業で手を挙げて発言できる子どもと、ちょっと恥ずかしくて手が挙がらない子がいます。どちらがよいというわけではないはずなのに、結果的に、子どもの個性によって、授業での発言量に差が生じてしまうのです。

 自分の考えを表現する手法にも、多様性があっていいと思います。手を挙げて発言するほうがしやすいのならそれでいいし、タブレットにテキストで記述するほうがしやすいならそうすればいい。

 ICTを活用することで、今まで拾いきれていなかった子どもたちの声を拾うことが可能になって、今まで以上に、子ども一人ひとりの個性に寄り添うことができるようになったと実感しています。

―― それは、保護者にとってもうれしいことです。授業参観などで、子どもの手が挙がらない様子や、手を挙げたのにたまたま先生に指されなかったことに落胆する必要がなくなりますね。

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 学校におけるICT環境整備は、プログラミング教育などのためだけではなく、すべての教科における学びの質を高めると同時に、家庭学習で「好きなこと」に取り組んだ成果をシェア&他者承認してもらうためにも有効とのこと。

 多くの自治体で、文部科学省のGIGAスクール構想(=1人1台の端末を配布する)が、前倒しで進められています。手元に届くまで今しばらく時間がかかるかもしれませんし、もちろん、端末が配られてすぐに、授業の質が格段に上がるわけではなく、教員たちのスキルアップの時間も必要になるでしょう。ただ、それでも公教育の質は上がっていくと予想され、今回の話を聞いて、GIGAスクール構想実現の日が今まで以上に楽しみになりました。

取材・文/森田亜矢子 イメージ写真/鈴木愛子