コロナ休校で、子どもの学びが停滞し、不安を覚えた親は少なくないでしょう。コロナ禍で浮き彫りになった、さまざまな課題を前向きに捉え、日本の公教育を変えたい――。自身も小1と4歳の子どもを育てる、子育てマーケターの森田亜矢子さんが、そんな思いで、先進的な取り組みやキーパーソンを紹介します。1回目は、ICT環境整備において、東京都内の公立小学校のトップランナーである小金井市立前原小学校の、ICT主任教諭・蓑手章吾さんに聞きます。

【前編】学校が止まると学びが止まった 足りなかったものは←今回はココ
【後編】主体的な学びのために「好き」に加えて必要なこと

コロナ休校で考えた「学校が提供していた価値」

 小1と4歳の子どもを育てる、子育てマーケターの森田亜矢子です。新型コロナウイルスの影響で学校が休みになってしまったことで、子どもたちの生活は一気に乱れました。子どもを朝決まった時間に起こすことすら難しく、「学校がある」ということによって、子どもたちの生活リズムが作られていたのだなと気づきました。

 「保護者へ丸投げ型自宅学習」を強いられ、家族という閉じられた人間関係の中だけでは、まず子どもを机に向かわせるところから苦労した親は多いと想像します。わが子の学校では、まだ一度も学校に通ったことのない新小1に対して、30分刻みで「国語」やら「算数」やら学習課題が示された時間割が配られたのですが、私の場合、時間割通りにやらせるなんて到底無理。1日かけても、その時間割に書かれている課題をこなすことすらできませんでした。コロナ禍によって、私たち保護者は、今まで気づかなかった「学校というものが提供していた価値」を考える機会を得たかもしれません。

 ほとんどの公立校は旧態依然とした「紙+電話」というアナログ方式での休校対応にとどまりました。一方、私立校では、早々にオンライン授業が始まり、1学期中は継続することが発表されているところも。公立校vs私立校で、教育格差やICTリテラシー格差は広がる一方です。

 しかし、悲観する話ばかりではありません。ごく一部の公立校では、BYOD(Bring Your Own Device:各家庭や先生が所有するデバイスを利用すること)で、コロナ休校中に『学びのICT活用』を一歩進めることができました。これは大きな変化だと感じています。

 教育のICT活用は、「教育の質」をドラスチック&スピーディーに変革させる力があります。「公立校だから仕方ない」ではなく、「公立校もすごい」という未来が、今、少し近づいてきているのかもしれません

 この連載では、「ICTによって日本の公教育がどんなふうに変わっていくのか」をテーマに、さまざまな教員や専門家に話を聞いていきます。今回は、東京都内の公立小学校の中で、ICT環境整備のトップランナーである小金井市立前原小学校の、ICT主任教諭・蓑手章吾さんに聞きました。

 前原小学校は、昨年度まで総務省のスマートスクール実証校に指定されていたため、コロナ以前より、校内に児童1人1台のパソコン環境が整備され、普段の授業でも「SchoolTakt(スクールタクト)」というクラウド型学習支援ツールを使うなどICT活用が進んでいました。休校期間中、蓑手さんが担任をしていた学年では各家庭で所有するPCやタブレット端末で、SchoolTaktを活用し、「オンライン自習室」という取り組みを行いました。

「学びが止まった」 その意外な理由

■「学校が止まると学びが止まる」のは、学校が子どもたちを「アクティブ・ラーナー」に育てられなかったから

―― 学校が休校になったとき、小学生~大学生までの多くの子どもたちの学びが止まりました。塾などに通っている子の場合、塾が早々にオンライン授業を提供したことによって学びが継続できたようですが、これでは家庭の経済格差がそのまま教育格差になってしまう気がします。

蓑手さん(以下、敬称略):学校が止まって子どもたちの学びが止まるなら、それは「学校が提供していた学びが子どもたちのやりたいことではなかった」ということです。