「モンスターペアレンツ」にならない声の上げ方

遠藤 ぜひ保護者にも、社会をより良くしていくための意思と力である「エージェンシー」を発揮してもらいたいですね。そのために、まずお願いしたいことは、「子どもの話をしっかり聞いてほしい」ということです。

 熊本市では、一斉休校期間中に実施したオンライン授業について、先生・子ども・保護者に対してアンケートを行いました。先生と子どもの感想は非常に一致していて、「これくらいがちょうどよい」という回答が多かったのですが、保護者からは「もっとたくさん授業をしてほしい」という意見が多く、先生や子どもの実態を、保護者が把握できていないのではないかと感じたのです。

 また、「モンスターペアレンツ」と言われるのは、自分の子どものことしか考えていない発言であった場合だと思います。エージェンシーの視点を持って、全体の利益にも視野が開いていれば、モンスターペアレンツになってしまうことはないのではないでしょうか。

 実は、体罰などの重大事案が起きた際に、学校名などを公表することを拒む保護者が多いんです。体罰は絶対にあってはならないことなので、教育委員会としては明らかにすべき事実はきちんと公表して、再発防止につなげたいと考えている。そのためのシステムもつくっているのですが、「おおごとにしてほしくない。(その先生を)自分の子どもの担任にしないでもらえればいい」と言われるケースが多いことを、残念に感じることもあります。

―― 私たちの世代は、事なかれ主義といいますか、おおごとにしないというスタンスが染み付いてしまっているかもしれませんね。

遠藤 繰り返しになりますが、公教育が担うべき役割の中でも、最も重要なのは、「エージェンシー:自分と社会をより良い方向へ変えていく意思や力」を育成していくこと。そのためには、保護者の皆さんにも意識を変えていただき、エージェンシーの視点を持って学校に関わってもらいたいのです。


 学習指導要領の大規模な改訂やGIGAスクール構想など様々な教育変革の波と、コロナによって強制的にもたらされた新しい価値観への変化の波が、くしくも、今重なっているように感じます。

 振り返れば、この連載を始めたきっかけは、「エージェンシー」の視点でした。教育界のキーパーソンに話を聞いた連載を通じて、日本の公教育は、これから良い方向に変わっていくだろうという確信が得られました。各自治体の進捗はそれぞれ違いますので、あまり変化が感じられない場合もあるかもしれません。しかし、変革をただ待つのではなく、「保護者も主体者の1人である」という点を忘れずに、私も引き続きできることをやっていきたいと思います。

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