やる気のない少年を変えた「魔法の声かけ」
西岡 偏差値50くらいの都内の中高一貫校で、そこで入学直後からずっと学年ビリの成績を取っていました。あまりに成績が悪いので、中学時代、母と一緒に学校に呼び出されて、3時間くらいの三者面談をやったことが2回ありました。要するに「このままでは中学から高校に上げることはできませんよ」という話です。
加藤 お父さんは?
西岡 単身赴任していました。
加藤 なるほど。三者面談の後、お母さんの反応はどうでしたか。
西岡 それが「勉強しろ」とは絶対に言わないんです。母と僕には中学受験のときの勉強にトラウマがあって、母は一向に勉強しようとしない僕に勉強させることを諦めちゃっていたんじゃないかと思います。
加藤 その話は、また後でたっぷりとうかがいますね。でも、そんな西岡さんが、どうして東大を受けようと思い立ったのでしょう?
西岡 そこがまさに「リアル・ドラゴン桜」で、僕に「東大でも目指してみろよ!」と、発破をかけてくれた先生がいたんです。
それが中学3年生のときに出会った音楽の渋谷先生です。渋谷先生とは妙にウマが合って、僕にとって兄貴みたいな存在でした。
当時の僕は、成績も悪ければ、ほかに夢中になれることがあるわけでもなく、何をやっても中途半端でした。現実逃避みたいに漫画やゲームばかりで。そういう子どもって、学校でいじめられるんですよね。そんな僕のことを、渋谷先生はふがいなく感じていたのだと思います。あるとき、こんなことを僕に言ったんです。
「お前は、このままじゃダメだ」
「お前は、自分ができないやつだと思っているだろう。自分にできることなんて何もないと思っているだろう。自分でそういうふうに『ここまで』という線を決めて、そこから先には行けないと思っているだろう」
「人間は自分で線を決めて、多くの人はその中でしか行動しなくなる。『自分にできる範囲はこれくらいだ』と自分の領分を自分で決める」
「でもな、その線は幻想なんだよ。人間は何でもできるし、どこにだって行ける。『できない』と考えている、その心がブレーキになっているだけなんだよ」
「だからお前、めちゃくちゃ高い目標を持って、頑張ってみたらどうだ?」
渋谷先生にそう言われて、僕は妙に納得したんです。「ああ、そうか。自分はそうやって、自分で線を決めていたのか」「それなら、何か目標を決めて、頑張ってみようかな」と。
それで、「何を目標にすればいいですか?」と先生に尋ねたら、返ってきた答えが「東大に行け!」でした。まるで『ドラゴン桜』の桜木建二先生ですよね。「スポーツとか芸術は才能も絡むが、勉強は違う。努力が努力した分だけ、返ってくる。だから、お前は、勉強を頑張ったらいいんじゃないのか」と。
加藤 「『できない』と考えている、その心がブレーキになっているだけなんだよ」という渋谷先生の言葉は刺さりますね。それで思い出すのは、東大合格者が多いことで知られる進学校の校長先生がおっしゃっていたこと。「うちの生徒たちは、ここの空気を吸っているだけで東大に行けるような気になる」と。
東大受験に限らず、どんな勉強でも、学力以前に「自分にもできるかも」と思えるマインドセットがすごく大事だと思います。
それにしても、東大を目指すにはエネルギーが必要で、まして西岡さんは2浪しているじゃないですか。それだけのモチベーションは、どこから湧いてきたのでしょうか。