保護者は安心できず、働く側も身の潔白を証明できない

 「イギリスでは、子どもに関わる仕事に就く場合にはDBS(Disclosure and Barring Service)という政府機関による犯罪歴の調査を受ける必要があり、性犯罪歴のある人は、有償であっても無償であっても、子どもに関わる仕事はできない仕組みがあります。日本には、そのような仕組みがないため保護者は安心できず、雇われる本人も自分は犯罪歴がないという身の潔白を証明することができません」(木村さん)

衆院議員、総務大臣政務官の木村弥生さん(自由民主党所属)
衆院議員、総務大臣政務官の木村弥生さん(自由民主党所属)

 木村さんは2019年2月、予算委員会の分科会で、日本でもDBSのような仕組みが導入できないか質問しましたが、個人情報の保護や本人の社会復帰・更生を妨げるという観点から難しいと指摘されました。

 「更生保護については、私も重々承知しています。私自身、専業主婦を経て38歳で大学に入り直し、40歳から看護師になった経歴もあり、再チャレンジ可能な社会の重要性は身をもって感じています。ただ、世の中には数多くの仕事があり、性犯罪歴のある人が、あえて子どもに関わる仕事で更生する必要はないと思っています」(木村さん)

「日本版DBS」実現のためのハードルは?

 「日本にも、イギリスのような、無犯罪証明書を発行し、保育や教育の現場で仕事に就く前に性犯罪歴をチェックする仕組み『日本版DBS』を導入すべきです」(前田さん)

認定NPO法人フローレンスのスタッフの前田晃平さん
認定NPO法人フローレンスのスタッフの前田晃平さん

 「日本版DBS」実現のための、もう一つのハードルといわれているのが「個人情報の保護」です。行政機関の保有する自分自身の情報に個人はアクセスできますが、例外として、自分自身の情報であっても刑罰などに関するものはアクセスできないと定められています。

 ただ、前田さんはこう指摘します。

 「例えば日本人が、イギリスで子どもに関わる職場で働きたい場合、無犯罪証明書を提出する必要があり、日本の警察庁は、国内での犯罪経歴証明書を出しているんです。イギリスの子どもたちのためにはできて、日本の子どもたちのためにはできないのは納得がいきません

 また、里親になるために、養育里親や養子縁組里親の登録をする際は、都道府県が本人の意思を宣誓書で確認した上で、本籍地の市町村に対して、犯歴情報の照会をしています。なぜこれが可能かというと、里親の『欠格事由』、簡単にいうと『里親になれない条件』が、法律で定められており、禁錮以上の刑に処せられた人や、児童買春・児童虐待を行った人などが該当するとされているから犯歴を確認することになっているのです。こうした例では、犯歴照会は既に行われています。そう考えると、教員などの子どもに関わる職種についても、『性犯罪歴のある人はこの仕事に就けません』という趣旨の欠格事由を明記した法律を作れば、犯歴照会が可能になると思います。

 段階を踏む必要があるのは、届け出制のベビーシッターです。欠格事由を設定する前に、まずベビーシッターを登録制や許可制にする必要があります。7月初旬に、加藤勝信厚生労働相が、ベビーシッターを免許や認可制にする必要性も含めて検討するという趣旨の発言を委員会でしていました。

 私たちは『日本版DBS』の実現へ向けて今、各省庁の官僚の人に話を聞くなどしています。なぜベビーシッターだけ登録制にするのか、塾講師や習い事の先生は登録制にしなくていいのか、子どもに関わる仕事をどこまで広げるか、など議論すべき点はいろいろあります」(前田さん)