「そこしか頼れない」状態は依存を生む

 特定のシッター会社以外のオプションを持っておくことも大事です。理由は、そのサービスが本当に優れているかどうか、客観視するためです。

 ときどき、1社しか利用したことがないのに、そこが一番いいと思い込んでいる人がいます。例えば「キッズラインは安い」と言う人の中で、他社と本気で価格比較をしたことのある人はどれだけいるでしょうか。ぜひ、ほかのサービスも使ってみて、比較してみてほしい。親側も、見る目を養う必要があります。

 また、1社しか頼るところがないと、そこに心理的に依存してしまうというリスクがあります。「助けてくれたから」という気持ちが働き、「ちょっと変だな」と思っても、のみ込んでしまう可能性があるのです。

 これは保育園でも起きることです。例えば「待機児童の多い地域でやっと入れてもらえた」という恩義があると、園で多少変な出来事が起こっても「ここがいいんだ」と思い込み、やめるという選択肢が浮かばないのです。

 これを防ぐには、できるだけ自分以外の視点を入れて、そのシッターサービスを見ることです。まずは夫です。共働きなら、朝は夫が子をシッターに引き渡し、夜は妻が早く帰る、といったパターン(またはその逆)もあるでしょう。そのとき、お互いに「どう感じた?」と聞いてみるのです。どうしても、シッターや保育園など子どもの預け先を選ぶ仕事は、母親に偏りがちです。その作業を父親もシェアすることが大切です。

 また、周囲にシッターを頼んでいる知り合いがいるなら、「この件、どう思う?」「この会社の対応はこうだったけど、ほかはどうだった?」と情報交換してみることも、客観視につながります。安価で良質の保育園が少なく、シッター利用が不可欠のアメリカでは、親が専門職や管理職の場合、シッターに月20万円かけるという家庭も珍しくありません。その代わり、親が数人で一人のシッターに頼み、金銭面だけでなくシッターへの評価もシェアし合うことがあるようです。

行政側にも責任の一端がある

 最後に、今回の事件では、容疑者やキッズライン側はもちろん、行政にも責任の一端があるのではないかと考えています。

 なぜなら、キッズラインの登録シッターが最初に事件を起こしたとされるのは昨年11月ですが、それ以降も内閣府や東京都、複数の地方自治体は、キッズラインを助成金や割引制度の対象から外していません。対象にするにあたり、どれだけ厳格な審査をしたのか疑問ですし、利用者を安心させてしまった面はあったでしょう。

 また、2件目の事件は、新型コロナウイルスによる保育園の休園期間中に起こりました。あのとき、どうしても働かなくてはならない親のために、保育士さんに特別手当を付けてでも保育園を開園してくれていたら、質の悪いシッターに頼らざるを得ない状況は防げたかもしれません。キッズラインの利用者の中には「他のサービスに比べて1時間あたり数百円安い」と言う人もいます。その数百円を節約してまで働かなくてはならない状況こそ、行政がなんとかすべきではないでしょうか。

 親たちの中には、シッターを頼んでいることや、そこにお金をかけていることを周囲に知られたくない、と考える人もいるようです。誰に相談しなくてもスマホでシッターを探せるキッズラインは、そうした人たちにとっても使いやすかったのかもしれません。しかし私たち親側も、シッター選びに労力やコストをかけることを、もっと真剣に考えてもいいと思います。そして、親同士がシッターについて情報交換できる場がもっとあれば、「何かおかしい」と感じたときに引き返すきっかけが生まれるかもしれません。