中学・高校・大学入試で「表現力」を問われる出題が増えています。親の世代は経験していない評価基準ということもあり、表現力を養成する塾や習い事に通わせたほうがよいのかと翻弄される親もいるでしょう。今こそ改めて「表現力」とは何か、どのように育むものなのか、考えてみませんか。童話作家で3人の子の母、まつざわくみさんが実践する、わが子の表現力を育む方法を聞いていく本連載、最終回では、家族間で送り合う手紙の効果と、子育てのふとした場面を五・七・五で詠む「はぐくみ句」について紹介します。

【童話作家の私が育む、わが子の「想いを言葉にする力」】これまでのラインアップ
小3の娘の童話が最高賞を獲得 作家の母の教えは?
子の表現力を育てる「おしゃべり日記」と「暗やみ絵本」

日常にクリエイティブな時間をもたらす「家族ポスト」

 みなさんは家族に伝えたいことがあるとき、直接話す以外にどんな方法をとりますか? 大人同士やスマートフォンを使いこなせる子となら、LINEなどのSNSやメールを使うでしょう。

 一方で、子どもから手紙をもらう機会も意外と多くありませんか。

 まつざわ家には、「家族ポスト」というユニークな家族間のコミュニケーションツールがあります。コロナ下を機にリビングに開設されました。

 家族の誰かに宛てた手紙を、彩野(あの)さん(小4)自作のポストにいつでも投函(とうかん)することができ、夜7時になると誰でも「郵便局員」になって開いてよいのです。

彩野さんが2年前、コロナ下で作った「家族ポスト」はリビングの端に今でも置かれている
彩野さんが2年前、コロナ下で作った「家族ポスト」はリビングの端に今でも置かれている

 内容はさまざま。「〇〇してくれてありがとう」「だいすき」、伝えたいことを文字にすると、おしゃべりだけでは伝わらないぬくもりが届けられます。次女の花音(はなね)ちゃん(5歳)は、手紙を入れた日には、「きょうママにとってもいいものが届くよ」とこっそり教えてくれることもあるそう。

 「いつものリビングに家族ポストがあるだけで『想いを言葉にして届ける』というコミュニケーションの素晴らしさを実感することができて、日常にクリエイティブな時間が繰り広げられる気がします」(まつざわさん)

同居のおばあちゃんから手紙が届く日もある。1日1回、ポストを開く時間が楽しみに
同居のおばあちゃんから手紙が届く日もある。1日1回、ポストを開く時間が楽しみに

 手紙は、誰かに集中して届く日もあります。でも、「カオス」が好きなまつざわさんは「不平等・不公平さも、思考のチャンス」ととらえ、あえてこっそり数をそろえるなどコントロールすることなく、子どもたちにそのまま渡します

 「ああ、あの人は手紙が届かなかったな、と気が付いて、次の日はその人に手紙が数枚届いたりすると、子どもたちが感じて動いたことに対して、母としてほくそ笑んでしまいます」

自分に届いた手紙にじっくり目を通す想葉(そうよう)くん(小2)
自分に届いた手紙にじっくり目を通す想葉(そうよう)くん(小2)

 前回記事「小3の娘の童話が最高賞を獲得 作家の母の教えは?」で少しご紹介したのですが、まつざわさんは「不平等・不公平さ」は思考のチャンスととらえます。たとえば、食後のデザートを家族の数で割り切れない数で出したときに、子どもたちが「どのように思考するのか」をご紹介しましょう。

 「大好きな果物が10個に切り分けられていて、祖父母を含む7人家族でいかに分けるかを話し合う様子を見ているのは、毎回とても愉快です。

 3つ余るから子どもだけ2個ずつ食べてよいかと提案され、『いやいや大人も2個食べたい』と主張した時に、子どもたちは困りながら討論するのですが、その内容がとても面白いんです。ジャンケンになったり、急に歌唱コンテストが始まって優勝者が食べられることになったり、子どもたちのユニークな提案にはいつも驚かされます」

「あえての不平等・不公平さで子どもに思考のチャンスを与える」とまつざわさん
「あえての不平等・不公平さで子どもに思考のチャンスを与える」とまつざわさん