政府は「2020年度までに指導的地位に女性が占める割合を30%にする」という目標を掲げていたが、達成が困難なため、目標を先送りする方針だ。実際、2019年度の雇用均等基本調査によると、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合はわずか11.9%にすぎない。そんな中、女性管理職比率約30%、女性役員比率40%をすでに達成しているのが、大手化粧品メーカーのポーラ。2020年1月にポーラの代表取締役社長に就任し、大手化粧品メーカーでは初の女性社長となった及川美紀さんに、ポーラで実践しているジェンダー平等経営について聞いた。聞き手は平田昌信(日経xwomanプロデューサー)。

ポーラ代表取締役社長の及川美紀さん
ポーラ代表取締役社長の及川美紀さん

女性には「壁を壊す力」がある

――化粧品業界は女性が多いイメージがありますが、大手化粧品メーカーの中では、実は及川さんが初の女性社長なんですね。

及川美紀さん(以下、及川) そうなんですよ。私も今回そう言われてびっくりしたんですけど。確かに今までいなかったですね。

 ただ、ポーラ・オルビスホールディングスのグループ会社(孫会社除く)は、4割くらいが女性の社長です。女性だからというよりも、その人の個性を見て、指名しているんだと思います。

――ポーラの女性管理職比率は約30%、女性役員比率も40%。この数字を見ても、ジェンダーギャップはあまり感じられませんね。

及川 はい。もともと、ポーラには、女性たちが時代を切り開いてきた歴史と、女性の可能性を信じる企業文化があるんです。

「女性には壁を壊す力がある。女性の突破力に期待している」「女性が壊した壁を、男性が箒(ほうき)とちりとりで片づけるとうまくいく」

 これは、当時の鈴木郷史社長(現・ポーラ・オルビスホールディングス社長)が社員に向けて発したメッセージです。私はまだ管理職になる前でしたが、その言葉が強く心に響いたのを覚えています。

 実際、ポーラには、女性たちが壁を壊してきた歴史があります。およそ30年前、訪問販売スタイルから百貨店事業への進出を起案・推進したのは女性社員。15年前、ショップ『ポーラ ザ ビューティー』の展開構想をまとめ上げたのも女性社員。女性たちの「これをやりたい」「これをすべきだ」の声が、ポーラのチャレンジの歴史を創ってきたんです。

 女性って、いろんな視点・視座を持っていると思うんです。妻であったり母であったり、ときには一消費者であり、ビジネスパーソンでもある。男性以上に多様な役割を担って社会と付き合うので、その時々の立ち位置によって、いろんな顔を使い分けるし、視点・思考が変わるんです。ちなみに「母親」としての私は、父母が集まる場では「大丈夫?」と心配されるようなダメママだったので、下の方の立場の気持ちもよく分かります(笑)

 このように様々な立場や視点を持っているので、女性は「これってどうしてこうなの」「これっておかしくない?」と違和感を持ちやすい。「感受性が強い」とも言えますね。

 そうした女性の「気付き」を、この会社は吸い上げ、それを突破口にしてビジネスをトランスフォームさせてきたんです。その経験から、当時の鈴木社長は女性の強みを「壁を壊す力」と表現したんですね。

肌に良い「赤色光」を透過する日焼け止めを兼ね備えた日中用クリーム「B.A ライト セレクター」。感性とサイエンスを掛け合わせ大ヒットにつながった
肌に良い「赤色光」を透過する日焼け止めを兼ね備えた日中用クリーム「B.A ライト セレクター」。感性とサイエンスを掛け合わせ大ヒットにつながった

「女性が壊した壁を男性が箒とちりとりで片づける」……というのは、決して男性が女性の後をついていくということではありません。男性には「構築力」がある人が多い。つまり、女性の気付きをロジカルに整理し、ビジネスモデルに落とし込むことにたけている人が多いんです。そうして男性が構築したものに対し、女性が違和感を見つけ出し、改善のサイクルが回っていく。どちらが前・後ということはなく、すべてが共同作業です。

 例えば、2020年3月に発売し、3日で2万個を売り上げた日焼け止めを兼ね備えた日中用クリーム『B.A ライト セレクター』。女性の「香り」「使い心地」への感性を生かすと同時に、男性がサイエンスの部分を説得力を持ってメディアにプレゼンしたことで魅力が伝わり、大ヒットにつながりました。このように、それぞれの強みを掛け合わせることで新たな事業・商品が生み出されているんです。