日本には「正しい危機感」が必要

―― これだけ国や企業の成長にとってダイバーシティが重要であるにもかかわらず、なぜダイバーシティが進まないのでしょうか? やはりグループシンクに陥っているのでしょうか?

只松 はい。グループシンクの症状には「自分の集団の実力に対する過大評価」「過度な楽観主義」また「都合の悪い情報は遮断する」というものがあります。

 日本が国際社会から幾度もダイバーシティが進まないことに関して指摘されているにもかかわらず、本質的な取り組みに踏み込めない理由の一つに、「日本は大国だから大丈夫」という幻想を、多くの人が持ち続けていることがあると私は考えています。

 現実を見れば、ここ20年の間に日本の国際的地位は大幅に下がり、そして現在も下がり続けています。IMD(国際経営開発研究所)が毎年発表している世界競争力ランキングでは、日本は1989年の調査スタート当時、ランキング1位でしたが、90年代後半から順位を落としはじめ、2019年は30位になってしまいました。

 各国の競争力は論文の数に比例するといわれていますが、引用回数がトップ10%に入るような優秀な論文の数を見ると、90年代は米国が圧倒的に1位という状況でしたが、現在は日本よりも順位が低かった中国が米国に追いつく勢いで一気に順位を上げています。また、90年代には日本と同じくらいであったドイツや、日本よりも順位が低かった韓国が、着実に引用数を増やして順位を上げている一方で、日本はマイナスとなっています。

 これらは日本の国際的競争力が低下していることを示唆するデータのほんの一例です。

 人材獲得競争力の低さ、給与の低さ、生産性の低さ、相対的貧困率の高さなど、数多くのデータが日本の世界における地位の低さを示しています。ただ順位が低いというだけではなく、順位を落とし続けているという事実にも注目する必要があります。他の国が国際的競争力を上げ続けている一方で、日本は変化できずに世界的競争力を落とし続けていることに危機感を持つ必要があります。鎖国をしているならまだしも、グローバル経済の中で生き残る必要がある中で、今の日本は危機的な状況にあると言わざるを得ません。

―― これらの「不都合な真実」は、どのようにすれば日本社会に認知されていくと思いますか?

只松 不都合な真実がもっと理解されるためには、メディアの役割が重要になります。ただ、このような日本の国力を否定するような内容は酷評を受け、逆に日本は素晴らしいというような趣旨の記事は評判がよいという傾向があります。そうなるとメディアもビジネスですから、評判がよい情報のみを発信しがちになります。

 メディアの重要な役割の一つは「権力の監視」です。この点においても日本のメディアは十分に機能しているとは言い難いと言わざるを得ません。2019年の英オックスフォード大学ロイター研究所による「Digital News Report」では、「権力の監視」を評価すると答えた人の割合を国別で見ると、米国45%、英国42%、韓国21%で、日本は最低の17%です。

 日本が国として成長しなければ、結局メディアのビジネスも成り立ちません。国民が正しい情報を持ち、正しい危機感を持ってこそ、初めて行動につながります。この国の持続可能性を高めるため、メディア自身も変わっていく必要があるでしょう。

―― まさに、この「日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト」の活動の目指すところです。経営者にとって耳の痛い話や不都合な提案だらけです。しかし、そこから目をそらさず、率先して実践する企業の事例を意欲的に発信していきたいと考えています。

文/阿部祐子 写真/小野さやか

只松美智子(ただまつ・みちこ)
只松美智子(ただまつ・みちこ) デロイト トーマツ コンサルティング ジェンダー・ストラテジー・リーダー。外資系コンサルティングファームを経て、2010年にデロイト トーマツ コンサルティング入社し、ソーシャルインパクトユニット所属。社会課題、特にジェンダーに関わるさまざまな課題解決に向けたコンサルティングサービスを提供している。企業の役員に占める女性比率を3割に引き上げることを目標とした英国発のグローバルキャンペーン「30%クラブ・ジャパン」創設者。