ガバナンスの欠如がもたらす間違った判断

―― グループシンクの実例はありますか?

只松 グループシンクはもともとアメリカの心理学者、アービング・ジャニスが発表した概念です。ジャニスが挙げた事例は、真珠湾攻撃(日本が真珠湾を攻撃する可能性を過小評価した、ハワイおよびワシントンD.C.の米海陸軍首脳)、ベトナム戦争(各方面からの警告を無視した、1964年から67年にかけてのジョンソン政権による戦争の拡大)、ウォーターゲート事件(事件が政権存立に与える危険性への認識が欠如していたニクソン政権)など、主として米国大統領とアドバイザーたちで構成される集団の失敗です。

 日本がこれまで経験した戦争(例えばアジアの小国である日本が米国や英国に宣戦布告をした太平洋戦争)や、多くの企業の不正も、同じような集団心理が働いた例だといえるでしょう。

―― 怖いですね。多様性が低いとなぜグループシンクに陥るのでしょうか

只松 ガバナンスが機能しなくなるからです。ガバナンスとは、集団の重要な利害関係者に不利益が生じるような判断をしないよう自らを監視し、律することです。企業の場合は、株主、従業員、顧客、地域社会などが重要な利害関係者となります。多様性がある意思決定機関では、さまざまな観点で多面的に議論することが可能になります。結果、重要利害関係者の視点が抜け落ちにくくなり、間違った判断を回避できるようになります。

 同じような経験、スキル、考え方の構成員だけで議論をすると判断が偏ってしまうのは容易に想像できると思いますが、自分たちの間違いに気づけなくなる、逆に正しい判断ができなくなると危険信号です。重要な意思決定機関でグループシンクが起きる場合、その影響は計り知れません。政府で起きれば国民全体に影響を及ぼす問題となります。

―― まさに今、コロナ禍の対応で世界のリーダーたちが耳を傾けるべき例ですね。

只松 コロナにかかわらず、有事の際は社会の脆弱層が一番大きな影響を受けることが報告されています。貧困層、女性、子ども、その他マイノリティーを含む脆弱層が重要な意思決定プロセスに参画できる機会は少なく、その結果、彼ら、彼女たちの視点が抜け落ちてしまうのが理由です。給付金の申請方法でも、DVなどにより家を出ざるを得ない女性などへの配慮が十分ではなく問題となりました。

 また、コロナに関しては、日本政府のリスク管理能力の低さが露呈したといえるでしょう。コロナのような感染症が将来必ず起きることは分かっていました。2009年の新型インフルエンザ流行時に厚労省がまとめた報告書では、保健所の体制強化やPCR検査能力の強化、まさに現在指摘されている問題点が反省点として挙げられましたが、11年間もの猶予がありながら、対応を怠った結果が今回の政府の後手後手の対応です。問題が分かっていたにもかかわらず、「まだ大丈夫だろう」と事態を楽観し、正しい判断ができなかった結果であり、意思決定機関のガバナンスが機能していない事例といえるのではないでしょうか。