わが子のパフォーマンスを最も発揮できる環境とは、どういうものか、考えたことはあるでしょうか。今いる環境が子どもに最適と言えなくても、そこに「子どもを合わせる」しかないと考える人がほとんどのはず。しかし、医師で教育ベンチャー「SPACE」の共同創業者である三宅琢さんは、「子どもを環境に合わせるのではなく、子ども自身が『自分のトリセツ』をつくって教育現場や社会に働きかけていくことが大切」と話します。

苦手を克服するより、「得意」を伸ばす

 人には、多かれ少なかれ「苦手」があるものです。従来は、苦手が少なく「そつなく何でもこなす子」が評価されてきたため、「苦手は努力によって克服すべきだ」とされてきました。しかし、苦手への向き合い方は、徐々に変わりつつあります。「苦手だと思っていたこと」が本当は、今ある環境によってもたらされているだけ、という場合もあるからです。教育ベンチャー「SPACE」のメンバーで、眼科医・産業医でもある三宅琢さんは言います。

 「日本の教育はこれまで集団教育が基本で、皆が同じように座って板書をする、というスタイルの学びしか選択肢にありませんでした。しかしテクノロジーが進化し、教育現場にICT機器が整備されてきたことで、学習方法の選択肢は一気に広がってきています。

 例えば、脳の特性上、黒板に書かれた文字を読むことが苦手でも、聞くことが得意な子であれば、タブレットなどの読み上げ機能を活用すればいい。逆に、聞くのは苦手で目で見たことを記憶しやすい子なら、録画した授業を0.7倍速で聞けばいい。リモート学習が当たり前になれば、学校という環境に馴染めない子が家庭学習を選んでも不登校という扱いにはならないですよね」

 現在26歳のケイタ君(仮名)も、そうした周囲の配慮を受けて苦手を克服してきた一人です。ケイタ君は、まだタブレットなどが普及していない小学校2年生のときに、文字の読み書きが難しい識字障がいがあることが分かりました。ページ全体が目に飛び込んできて一文字ずつ読むのが困難なため、教科書を拡大コピーしたり、必要な文字以外を隠すカードを使ったり、別室で文字を読み上げてテストを受けたり、といった配慮を受けてきたそうです。

 それに加えて、ケイタ君の母親が、得意なパソコンを使えるよう学校に交渉したことにより、その後、ケイタ君は苦手の克服だけに注力しないでいられるようになりました。その結果、プログラミング研究で作った作品が県知事賞を受賞するなど、才能を開花。高校卒業後には、日本を代表するデジタルアート集団の一員として活動し、現在も、障がい者雇用ではない一般採用でデジタルコンテンツ会社の正社員として働いています。

 「生まれた時からスマホやパソコンが身の回りにあるデジタルネイティブである今の子ども達は、普通にスマホを使いこなしています。彼らが幼稚園や小学生のうちから、文字を見やすくしたり、音声で読み上げたりする機能を使いこなしていたら、自分が識字障がいだということに気づかずに一生を終わる可能性だってあると思います。

 苦手な分野がある子やその保護者は、ぜひこうした手段があることを理解し、『うちの子は○○だから、授業は○○(ICT機器)の○○機能を利用しながら受けさせたい』などと学校側に提案していただきたいですね」

イメージ画像
イメージ画像