誰も傷つけない、思いやりのある笑いを目指す

 観覧していた保護者に参加の動機を聞くと、「(うちの子は)内弁慶なので、みんなの前でも臆せず話せるようになってほしい」「今後は人前で発表する機会がますます増えるだろうから、今からそういう経験を積ませてあげたい」と、子どもが人前で緊張せず話せるプレゼンテーション能力を向上させることを期待して参加する人がほとんどでした。

 「堂々と人前で話せるように」は、木曽さん自身の狙いでもあります。そして何より、「自分も周りもハッピーになるコミュニケーションの取り方を覚えてほしい」という思いがあるといいます。それは自身の反省から生まれた思いでした。

 「まだ若手芸人だった頃はとにかく自分が目立ちたい一心で、スベッた芸人に対してものすごくキツイ言葉でツッコむことがありました。おかげで『悪(わる)さんちゅう』というあだ名まで付いたくらいです(笑)。でも、きついツッコミは相手が受け入れている場合のみ、笑いになります。例えば、出川哲朗さんは自分でいじられることを良しとしているので、見ていて面白いんです。そうでなければ、険悪な雰囲気になったり、イジメのように映ったりして、見ている人は笑えない。あくまで、みんながハッピーになれるお笑いを目指していたはずなのに、と自らを省みて『悪さんちゅう』は封印しました。お笑いは思いやりなんです」(木曽さん)

 ワークショップのプログラム内容は毎回違いますが、木曽さんは必ず初回の冒頭でこの話を持ち出し、誰も傷つけない笑いを目指すことを子どもたちと確認します。

 「誰かが失敗しても、他の人がフォローすれば『オモシロイ』という財産が生まれるんです」

 誰かが落としかけたボールをたたいて落とそうとするのではなく、食らいついてレシーブして笑いに変える姿勢は、ワークショップ中の木曽さんの子どもたちへの対応にも随所に見られました。子どもが何を言っても必ずツッコミを入れるものの、絶対にその子や発言を批判することはなく、笑いに昇華させます。

 「そこは特に、一番と言っていいほど気を付けています。子どもはちょっとした一言で傷ついてしまう。この場で一生引きずる傷をつけることはしたくないんです。さらに言うと、僕のツッコミの技量の確認にもなるんです(笑)」と、木曽さん。

 最初は緊張して目も合わせてくれないほどの心理的な壁をつくってしまう子もいるそうですが、木曽さんが何を言っても受け止めてくれることを理解すると、みんな心を開いてくれると言います。

リピーターの子の名前を呼び捨てしたことを羨ましく思って、自分も呼び捨てにしてほしがる子が何人もいるほど慕われているさんちゅう先生
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