働くママは、仕事でも育児でも常に結果を求められ、緊張を強いられています。だからこそ、意識して持ちたいのが、趣味の時間。「誰からも結果を求められずに、自分が好きなことに没頭して頭をリセットできる時間を定期的に持てると、心身ともにいい影響を及ぼすはずです」。こう話すのは、5歳の娘を育てながら、中学受験や子育てといった教育関連の書籍や事業などのPRプロデューサーとして活躍している、加藤彩さん。手描き友禅の制作を趣味とする加藤さんが、実際に感じている「趣味を持つこと」のプラス効果について、詳しく聞きました。

 中学受験や子育てといった教育関連の書籍や事業などのPRプロデューサーとして働く、5歳児ママの加藤彩さん。41歳でママになった加藤さんが、出産後、夢中になって取り組んでいるのが手描き友禅(友禅染)です。

 友禅染は日本の代表的な染め工芸の1つで、手描き友禅と型友禅の2つの技法があります。加藤さんが手掛ける手描き友禅は、紙に描いた図版を基に白生地に柄を手描きしていく方法を採ります。のりを使うことで、染料のにじみを防ぎ、華やかに染め上げることができます。

70代の恩師との出会いで手描き友禅にハマった

 手描き友禅に出合ったのは、24歳のとき。「手描き友禅のお教室を開くから来てみませんか?」と東京・東日本橋で呉服販売店を営んでいる加藤さんの母親の友人から誘われました。子どもの頃から平安時代の文化に憧れ、小学校のときに十二ひとえを着てみたかったという加藤さんは、「着物の世界に触れるのは楽しそう!」と軽い気持ちで参加してみることにしました。

 そこで出会ったのが、その後も長い付き合いになる師匠の岡川紫延さんです。当時、75歳でしたが、現役の友禅作家として活躍し、大きな呉服店や呉服問屋だけでなく、銀座などで個展を開催すればファンから多くの注文が入るという実力も人気も高い先生。

 「経験も実績も日本を代表するような先生なのですが、全く偉そうな素振りはなく、やさしくておちゃめで話題も豊富で……。何と言ってもいつも褒めてくれて、それがうれしくて。素人の私に、何でも挑戦することを後押ししてくれました。そんな素晴らしいお人柄の先生だったから、私も仕事が忙しかったのですが、続けられたのかもしれません」

 独身時代は、月に1回のペースで教室に通っていました。手描き友禅と聞くと難しそうなイメージですが、最初は辻が花風のテーブルコースター制作から始まりました。次に、つむぎ生地にチョウチョウを羽ばたかせた黄色の暖簾(のれん)。その次は、ご祝儀を包む袱紗(ふくさ)といった小物から、染め帯、付け下げ、訪問着へと、少しずつ段階を踏んでチャレンジしていったと言います。

 作品を作り続けていく中で、祝いの意味を込めたもの、健康を願うものなど、日本の文様にはそれぞれ意味があることを学んでいったと加藤さん。41歳で初めての子どもに恵まれたとき、それまで自分のために作ってきた作品を、今度は自分の子どもの成長を祝うために作ってあげたいという気持ちが自然に湧いてきたと言います。そこで、子どもの晴れ着の完成を娘の節目節目のイベントに間に合わせるために、本格的に取り組み、妊娠6カ月の頃から週1日のペースで教室に通い始めました。

手描き友禅を教わった師匠の岡川紫延さんと
手描き友禅を教わった師匠の岡川紫延さんと