長引く新型コロナウイルス禍、ロシアによるウクライナ侵攻など、まさにVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代ともいえる日々が続き、子どもたちにも精神的な負荷がかかっています。そんな中、子ども向けのマインドフルネス動画プログラムが全国の小学校に無償提供され、子どものストレス改善に効果を上げています。無償提供の取り組みを始めたスタートアップ企業、Melon代表取締役CEOの橋本大佑さんに話を聞きました。

2カ月間のプログラム実施で、約71%の子どものストレスが低減

 ここ数年にわたる新型コロナウイルス禍の影響で、大人だけではなく子どもたちも「生きづらさ」を感じているのではないでしょうか。子どものうつ症状や自死も問題となっており、文部科学省の発表によると2020年の小・中・高生の自殺者数は統計の残る1980年以降では過去最多の499人、21年は473人と、コロナ流行前の19年の399人に比べて増えています。

 そんな中、全国の小学校に向けて子ども向けのマインドフルネス動画プログラムを無償提供しているのが、橋本大佑さんが代表取締役CEOを務めるMelonです。最近では全国の医療機関と連携し、医療機関にもマインドフルネス・プログラムの提供を行っています。

 Melonでは21年の5月下旬から11月下旬にかけ、全国の7つの小学校の4~6年生 279人を対象に、1回10分ほどのマインドフルネス動画プログラムを、2カ月間にわたり、各小学校で視聴、実践してもらいました(プログラムはMelonとNPO法人「共育の杜」の協力を得て実現)。

 「コロナ下で外遊びが減り、子どもたちがスマホやタブレットでSNS(交流サイト)や動画を見る機会が増えました。そうすると脳が情報過多となり、目の前のことに長く集中できなくなってしまいます。マインドフルネスはそうした子どものメンタルヘルス改善に役立ちます。また『今、自分は何をすべきか』『本当はどうしたいのか』という自分の考えや感情を大切にできるようになります」

 マインドフルネスの基本は、「今、この瞬間を意識する」というもの。プログラムは、子どもたちが、このマインドフルネスの基本的な考えを理解しやすいよう、すべてアニメーションの動画で制作。動画にすることによって、「プログラムを指導する人によって内容にばらつきが出ない」「子どもたちが興味を持ちやすい」というメリットもあったそうです。さらに「呼吸を観察するマインドフルネス」「体を動かすマインドフルネス」など15種類のプログラムを用意し、子どもたちが飽きないように工夫を重ねました。

現在、Melonでは全国の小学校へ向けて子ども向けマインドフルネス動画プログラムの無償提供を行い、15校がプログラムを導入している。写真は動画プログラムを実践する子どもたち(写真/Melon提供)
現在、Melonでは全国の小学校へ向けて子ども向けマインドフルネス動画プログラムの無償提供を行い、15校がプログラムを導入している。写真は動画プログラムを実践する子どもたち(写真/Melon提供)

 「あるプログラムでは子どもたちには『カエルになりきってみよう』と促し、『目の前を虫が通ったらどうする?』と聞くと、『食べるよ』『つかまえる』といった答えが返ってきました。カエルという分かりやすい例えを出したり、各種プログラムを試したりすることで、自分自身が『今どんな状態』で『何を考えているか』に意識を向けるという、マインドフルネスの考え方への理解を深めました」

 2カ月間、こうしたプログラムをほぼ毎日、1日10分間ほど各小学校で実践したところ、実に約71%の子どものストレス低減に効果があり、「心がスーッとした」「気持ちが落ち着いた」といった感想が子どもたちから寄せられたといいます。

 「初めての取り組みでどこまで効果が出るだろうと思っていた部分もありましたが、ここまでダイレクトな感想が返ってきたことで手応えを感じました」