世間的にタブーとされる感情に丁寧に寄り添い、研究した『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト著/新潮社)が話題になっています。著者はイスラエルの女性社会学者オルナ・ドーナト氏。すべての女性が母親になりたいはずだという社会的期待と、母親になることを価値ある経験とする評価に疑問を呈し、学術的な活動を続けている人物です。彼女自身、子どもを持たないと決めたことを公言しています。2016年にドイツで刊行されると欧州を中心に反響を呼び、世界各国で共感を集め、このほど日本でも刊行されました。日本語訳を手掛け、自身も12歳の男の子のママである鹿田昌美さんのインタビューをお届けします。

タイトルに反し、なんて愛情にあふれた本だろうと思った

日経xwoman編集部(以下、――) この本の原題は『Regretting Motherhood』。直訳すると「母親であることの後悔」ですが、翻訳の依頼が来たときにどう感じましたか。

鹿田昌美さん(以下、鹿田) 「『母親になって後悔している人』を研究した本」と聞いて、ドキッとしたのが率直な気持ちでした。同時にこのタイトルが日本の社会に受け入れられるのだろうか? と少し不安な気持ちになりました。

 実際に読んでみて、「タイトルに反して、なんて愛情にあふれた本だろう」と思いました。登場する23人の女性たちは、誰ひとりとして子どもを虐待したり、憎んだりしていません。むしろ母親という役割に真面目に向き合っている。「子どもを愛しているけれど、母である役割に耐えられず、苦しんでいる人たち」です。

―― この本をどんな人に届けたいですか?

鹿田 子育てで苦しい思いをしている人、子育て以外でも女性としての生きづらさを抱えている人に読んでもらいたいです。「母親という役割を持ったことに対する後悔」は社会的に「持つことが許されない感情』と認識されがちです。でも、この本に登場する女性のように「こんな生き方や考え方をしてもいいんだ」と思えるのは救いになるはずです。

 男性も女性も、親であってもなくても、発見があると思います。著者は子どもを持たないと決めた女性でありながら、母親の苦しみを理解するために手を差し伸べようとしている。カウンセリングのような側面もあれば、社会学者の立場から社会規範やジェンダー論に展開されている面もあります。だからこそ、この本はさまざまな立場の人の感情をゆさぶりますし、読んだときに温かい気分になったり、励まされたりするのだと思います。

鹿田昌美さん。右が原書『Regretting Motherhood』。直訳すると「母親であることの後悔」
鹿田昌美さん。右が原書『Regretting Motherhood』。直訳すると「母親であることの後悔」
鹿田昌美さん。右が原書『Regretting Motherhood』。直訳すると「母親であることの後悔」