卒寿を迎えてなお活動を続ける詩人の谷川俊太郎さん。70年間も言葉と向き合い、絵本や詩をたくさん発表してきましたが、意外にも「小学校時代の作文は苦手だった」と言います。子どもの国語力や読解力を伸ばしたいと願う親ができることとは? 一生続けられる「好きなこと」を見つけるには? 谷川さんにアドバイスを聞きました。

僕は物書きにはホントに向いてない

日経xwoman DUAL(以下、――) 谷川さんの詩や絵本は子どもにも大人気ですが、一方で、国語に苦手意識を持つ子は少なくありません。「作文が嫌い」「原稿用紙がどうしても埋められない」という子にアドバイスはありますか。

谷川俊太郎さん(以下、谷川) ああ、すごいよくわかる。僕もそうだったもの。僕の小学校時代は戦争中だったので、戦地の兵隊さんに「慰問文を書きましょう」という宿題がよく出たんですよ。でも知らない兵隊さんにいったい何を書いたらいいのか、さっぱりわからない。母親に相談したら、「今日学校で起きたことでも、友達と遊んだことでも何でもいいから書きなさい」って。そう言われると、なぜかますます書けなくなる。

 アドバイスを求められているのに申し訳ないんだけど、僕は物書きにはホント向いていないんですよ。詩だけは書けるんだけど、散文は今でもすごく苦手。詩を書く能力だけはあって助かっているんですよ。だから、誰もが作文を得意になる必要はないと思います。

「詩だけは書けるんだけど、散文は今でもすごく苦手」と谷川さん
「詩だけは書けるんだけど、散文は今でもすごく苦手」と谷川さん

谷川 書きたくない子って当然いると思いますよ。日記の宿題なんてさ、なんで毎日書かなきゃいけないの、って思いますよね。ときどき、書くことが好きな子もいて、そういう子はいっぱい書くわけ。すると書けない子はますます困ってしまう。

 でも、今は何を書いたらいいかわからなくても、これから先何か猛烈に書きたいことが出てきたり、ちゃんと伝えたいと感じたり、上手に書きたいと野心が芽生えたりするかもしれない。そんなときは、自分で書き方を勉強したり、親に聞いたりして、きっと上達するから、今あまり心配する必要はないんじゃないかな。