なぜ人は戦争をするのか、正義とは悪とは何か――。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、子どもから聞かれて答えに困った人もいるのではないでしょうか。そんな中、静かな話題を呼んでいるのが、2019年に出版された絵本『へいわとせんそう』(ブロンズ新社)です。作者の谷川俊太郎さんは、少年時代に第2次世界大戦を経験。戦争をテーマにした作品をこれまでにいくつも紡いできました。谷川さんの目に戦争はどう映ってきたのか、親は子どもたちに何をどう伝えていけばいいのか。絵本に込めた思いとともに聞きました。

<谷川俊太郎さん>
【前編】谷川俊太郎 戦争は、平和な日々に突然入り込んでくる ←今回はココ
【後編】谷川俊太郎 国語が苦手な子へ「僕も作文は嫌いだった」

平和は当たり前だ、と思いたい

日経xwoman DUAL(以下、――) 絵本『へいわとせんそう』では、シンプルな言葉と絵で、平和と戦争、味方と敵が対比されて描かれています。元気な「へいわのボク」の隣に、膝を抱えた「せんそうのボク」。鉛筆を握る手が描かれた「へいわのどうぐ」の隣に、銃を握った「せんそうのどうぐ」。なかには、一見して「みかた」と「てき」の違いが分からないものもあり、ハッとさせられます。戦争をテーマとした絵本をこのような形で表現したのはなぜですか。

谷川俊太郎さん(以下、谷川) 今って、戦争のありかたがすごくこんがらがっていますよね。敵と味方の区別がつきにくいし、戦い方もドローンを使ったりしてリモート化している。民族間の対立も宗教観の違いも経済的な関係と絡み合って複雑になりすぎている。

 これをこのまま普通に書くのはどう考えても無理だと思いました。それで、結果だけを書くことにした。戦争の奥底に流れているものを、みんなに納得してもらえる形ですくい上げることができれば、と考えました。

 言葉の数が多ければ多いほど、戦争というものがよく分からなくなる。だから、できるだけ少ない言葉と絵で伝えようと思いましたね。

「戦争について、できるだけ少ない言葉と絵で伝えようと思った」と谷川俊太郎さん
「戦争について、できるだけ少ない言葉と絵で伝えようと思った」と谷川俊太郎さん

―― 「へいわのかぞく」は家族4人が山盛りのおかずが並んだ食卓を囲んでいるシーン。その隣ページの「せんそうのかぞく」は、山盛りのごはんはそのまま、食器が散らかり、家族の姿がなくなっています。

谷川 これも戦争の一面でしかないですけど、戦争ってだんだんやってくるわけじゃなくて、いきなり突っ込んでくるわけです。もともと平和だったところに、戦争という異常事態が入り込んでくる。だからこの本のタイトルも、「戦争と平和」ではなく「へいわとせんそう」にしました。平和な状態こそ普通だ、平和は当たり前だ、と思いたいですから