2023年春に発足する見通しの「こども家庭庁」。多くの省庁にまたがる子ども政策の「司令塔」として期待されていますが、財源の確保などの課題や、組織の名称の曲折もあり、その「あり方」の行方が注視されています。(DUAL特選シリーズ/2022年4月7日収録記事を再掲載します)

子どもの視点に立つ組織、政策は一歩前進

 子どもの利益を最優先に考える「こどもまんなか社会」の実現を掲げた「こども家庭庁」が、来春にも発足する見通しとなりました。政府が昨年12月に打ち出したこども政策の基本方針によると、同庁は厚生労働省や内閣府、文部科学省などの子ども政策を調整する「司令塔」として、ひとり親支援や子どもの「居場所」づくり、虐待や貧困など困難な状況にある子どもの支援などに取り組むとされています。

 「子どもの視点に立って、彼ら彼女らの権利を尊重し、意見を政策に反映させる仕組みができることは、一歩前進と言えます」。同庁についてそう評価するのは、教育行政学、教育財政学が専門の日本大学文理学部教授の末冨芳さん。末冨さんは「社会のあらゆる場面で、まるで親が子どもを育てること自体に罰を与えるかのような政治、制度、社会慣行、人びとの意識」を「子育て罰」と定義して、著作などで提言を続けていることで知られています。

 「教育や啓発を通じて、子どもたちに『あなたは大切な存在』だというメッセージを発信し、子ども自身が意見表明できる環境づくりに取り組んでほしい。また子どもたちが困った時に頼れるよう、家庭以外にも多くの『よりどころ』をつくる役割も果たしてほしいと思います」。同庁について、末冨さんは、こう期待を語ります。

 一方、現時点では財源確保の道筋が明確でない上、「300人超を目指す」とされる組織の規模も小さく、幅広いテーマに対応するには不十分だと末冨さんは指摘します。「財源が明確ではなく組織の規模も小さい現状では、政府が子ども重視の姿勢を形ばかり示しただけと言われても仕方ないでしょう。最悪の場合、司令塔の機能を発揮できず新しい縦割り組織になってしまいかねません」

 また、末冨さんは、こうも話します。「日本の子どもは学校でも家庭でも意見を聴かれる機会に乏しく、意見表明に慣れていないため、多様な子どもの声を政策に反映させるのは容易でありません。例えば高校生ら当事者を政策委員に登用するなど、庁として、子どもが声を上げやすい仕組みをつくることも課題です」

 新聞報道によると、当初「こども家庭庁」とされていた組織の仮称が、自民党の勉強会に出席した虐待サバイバーらの意見を踏まえて「こども庁」へと変更され、さらに保守的な一部の政治家の声を受けて、再び「こども家庭庁」に戻るという曲折もありました。

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