新型コロナウイルスの感染拡大から2年がたちました。マスクは欠かせず、人とは社会的距離を取る生活が続いています。大人でさえさまざまなストレスを感じる今、子どもたちに与える影響やパンデミックの中での特殊な学習環境を考えると心配になる人も多いでしょう。ただ、脳科学者で日立製作所 名誉フェローの小泉英明さんは「子どもたちが科学への好奇心を失わず、意欲を持ち続けることは可能だと思っています」と話します。これからの時代の教育で小泉さんが重要と考えるテーマについて語ってもらいました。

大人たちは「偶然」が起きるときを大切にしなければならない

 子どもの好奇心を伸ばし、科学への関心を高めるヒントは暮らしの中にあります。取り巻く環境は大きく変わりましたが、そうした中でも科学に対する子どもの関心をうまく学びに展開し、コロナ対策につなげた興味深い試みを紹介しましょう。

 私が審査委員長を務める「2021年度 ソニー幼児教育支援プログラム」という論文のコンテストでは、21年度に国・公・私立の幼稚園・保育所・認定こども園の活動(主に1歳~5歳児)について、「『科学する心を育てる』~豊かな感性と創造性の芽生えを育む~」というテーマで募集しました。以下は審査委員特別賞を受賞した事例です。

 感染対策について、どこの保育施設も苦慮していると思います。どうしても「ダメ、ダメ」と禁止することが多くなると、子どもたちは萎縮して不安になってしまう。しかし、その園では子どもたちにコロナの話をしたら、興味を持った。そこで「ウイルスって何だろう」ということを調べたのです。

 もちろん専門的な話ではありませんが、どういうものかを子どもたちなりに理解しました。そして「うつらないようにするには、どうすればいいか」を考えてみた。その結果、「手についたウイルスを落とすには、手は洗わないといけない」「人にあまり近づいたり、ものに触ったりするのもよくない」ということが分かりました。

写真はイメージ
写真はイメージ

 さらに「自分たちでマスクを作る」ことも始めました。保育者が材料を提供し、子どもたちは試行錯誤したものの、なかなかうまくいかない。いろいろな方法でマスクに隙間ができないよう工夫しながら、ようやくマスクが完成しました。写真を見せてもらいましたが、子どもたちの理解、工夫の進歩がとても速いと感じました。自分たちなりに理由を考え、問題に向き合っているからです。

 この園ではそれ以降、「ダメ」「~しなさい」と口うるさく言わなくても、感染対策ができてしまいました。子どもたちが、そうしなければならない理由を理解したからですね。子どもたちの意欲を引き出し、コロナ禍のさなかで子どもたちが科学についての理解を深めながら、その結果としてウイルス対策もできた。これは、子どもたちが興味を持つという偶然がないと起こりませんでした。私たち大人は、こうした偶然が起きるときを大切にしなければなりません