中学受験人口は年々増え、準備を始める時期も低年齢化しています。「わが子の幸せのために」と受験に取り組んでいる人は多いでしょう。しかし、実際に走り出してみると、子どもや塾との関係に悩んだり、受験自体に迷いが出てきたりすることがあるようです。成績が伸びないと子どもを責めてしまい、自己嫌悪に陥るという声も聞きます。

そんな悩める中学受験親たちの共感を呼び、話題となった小説が『翼の翼』(光文社)です。著者は朝比奈あすかさん。自身も中学受験経験があり、2人の子どもが中学受験をした元中学受験親でもあります。中学受験シーズンが終わった今、小6の親へのメッセージやこれから受験に挑む親に伝えたいことを聞きました。

『翼の翼』
物語は元ワーキングマザーの有泉円佳が、長男・翼に受けさせた「全国一斉実力テスト」のシーンから始まります。小2の翼は小学校の勉強がよくでき、読書が好きで、スイミングは上位クラス、友達も多く、常に円佳を喜ばせてきました。テストの結果もよかったことから、円佳は翼を中学受験塾に通わせることにします。「この子のために」という愛情からスタートした中学受験。しかし、ママ友や義理の両親、夫、円佳自身のプライドに影響され、翼の心は傷つき、親子関係も大きく変わっていきます。

親が学校のファンになれば、子どもは誇りを持って通える

日経xwoman DUAL(以下、略) 中学受験を経験した親なら誰しもがドキリとするエピソードがちりばめられた『翼の翼』。翼も有泉夫婦も苦しむ展開に、この家族はどうなってしまうのだろうとページをめくる手が止まりませんでした。中学受験を終えた6年生の親子も、いろいろな葛藤を経て、今を迎えているのではと思います。ここまで頑張ってきた親たちにメッセージをお願いします。

朝比奈あすかさん(以下、朝比奈) 4月から行くことになった中学校は熱望校かもしれませんし、そうではないかもしれません。第1志望の学校に合格する子は全体の3割と聞いたこともあります。想定していなかった学校に決まった場合、親御さんもお子さんも気落ちしているかもしれません。

 しかし、どこに行くことになったとしても、まずは親御さん自身がその学校のファンになることが重要です。すぐにはなれないわ……という方もいるでしょうが、そこは大人ですから気持ちを切り替えなければ。忙しいかもしれませんが、夏休み前くらいまでは保護者会などにも足を運び、もし可能ならPTAの役員を引き受けるなどして、子どもの進学先と関わっていく。積極的に関わることで、これまで気付かなかった魅力を知ることができるかもしれません。忙しくて足を運ぶ時間がない場合は、ホームページを読み込むのでもいいと思います。

 そして「あなたの学校はいい学校だね」という空気を子どもの前で醸し出すのです。保護者会で話を聞いた先生について「○○先生って話がおもしろいね。授業はどんな感じ?」と聞いてみたり、「サイトにこんなことが出ているよ。すごいね」と話してみたり。「こんな学校に通えて羨ましいな」とか。親が自分の学校を好きだと知ると、子どもは通っていることに誇りを持てるようになっていきます。子どもにとって、この時期にそう思えることはとても重要です。

朝比奈あすかさん。問題が起きたクラスの子どもたちの心情を描いた『君たちは今が世界(すべて)』(角川文庫)が、2020年度の入試で開成、海城など13校で出題されるなど、中学受験頻出作家としても知られる。DUALにて『連載小説/ミドルノート』を連載。後編は4月から再開予定
朝比奈あすかさん。問題が起きたクラスの子どもたちの心情を描いた『君たちは今が世界(すべて)』(角川文庫)が、2020年度の入試で開成、海城など13校で出題されるなど、中学受験頻出作家としても知られる。DUALにて『連載小説/ミドルノート』を連載。後編は4月から再開予定

―― 「どんな結果であれ、いい受験だったと振り返れるようにするにはどうしたらいいだろうか」と考えている親は多いです。この取り組みはその問いに対する答えになりますね。来年以降受験をする親子は、これからどんなことをしておくとよいでしょうか?