好きなことに没頭する「夢中力」。そんな夢中力を発揮して、体を動かせない人などが遠隔で操作する「分身ロボット」OriHimeを開発した、ロボット開発者の吉藤オリィさん。「子どもの夢中力を伸ばす」をテーマに、花まる学習会代表の高濱正伸さんと特別対談しました。後編の今回は、「できないことは武器になる」「いいリアクションが飛び交う環境では人が育つ」などについて話しました。

前編 高濱正伸×吉藤オリィ 子の「夢中力」つぶさない術
後編 高濱×オリィ 親はリアクション上手であればいい ←今回はココ

コミュ力の福祉機器がないことに気づいた

日経xwoman DUAL(以下、略) 前編では、吉藤さんのご両親が、吉藤さんの抱く違和感や好きなことを受け止めてくれたり、リアクション上手だったりしたというお話を聞きました。リアクションは大事なのでしょうか。

吉藤オリィ(以下、吉藤) ある時点で、コミュニケーション力は、リアクションだなと気づきました。「いいリアクションが飛び交う環境では人が育つ」が持論で、リアクションで人が育つと思っています。

花まる学習会代表の高濱正伸さん
花まる学習会代表の高濱正伸さん

高濱正伸さん(以下、高濱) リアクションは、大事ですよ。それこそ夫婦間がうまくいかないのもリアクションが足りないのかもしれません。私も、父親を対象にした講演などで、「理で考えるな、相手の心を想像して、まずうなずこう」と伝えてみんなでうなずき方を練習することもやっていますよ。人間は相手にうなずいてもらうだけでも、「OKな気持ち」になれるものです。

オリィ研究所代表 吉藤オリィさん
オリィ研究所代表 吉藤オリィさん

吉藤 「雑談力」を自己研究していて気づいたことがあります。相手が言ったことに対して、おうむ返しでもいいし、「まじすか」でもいいけど、リアクションを返すことで相手が気持ちよくなる。気持ちよくなった人がよりしゃべったり、新たな質問を投げたりする。気持ちいいからいいリアクションを返せて、またこっちも気持ちよくなる、そういう時間を楽しむのが雑談だと解釈しました。雑談って、実はとても高度なんです。

 私は、2007年から早稲田大学創造理工学部に入って、19歳で初めて東京に住みましたが、当時の私は、人の目を見て話すことができなかったのです。雑談力や協調性などの社交力は大学で学ばせてもらえない。社交力を身に付けるために、大学で社交ダンス部をのぞいてみたけど、違うと気づいて。

高濱 面白いな(笑)。

吉藤 視力や聴力など「なんとか力」には大抵、福祉機器が存在します。

―― メガネや補聴器といったものですね。

吉藤 ほかにも、計算力にはエクセルがありますし、英語力に対しては翻訳ソフトがあります。でも、私みたいに人と話すことができない人のための、つまり、コミュニケーション力の福祉機器がないことに気づきました。コミュ力の福祉機器がないのはおかしいんじゃない、と思ったのが大きな転機でした。

―― ちなみに吉藤さんは、不登校を経て、工業高校に進んだのですよね。その後、早稲田大学に入学するまでの経緯を教えていただけますか。

吉藤 著書(『ミライの武器 「夢中になれる」を見つける授業』サンクチュアリ出版)でも詳しく振り返りましたが、ざっくり説明すると、不登校を経て、工業高校に進み、車椅子開発に取り組みました。そして、車椅子でも外に出ることができない人たちの「孤独」という問題をどうやったら解消できるだろう、というテーマを決めたのが17歳です。

高濱 ほう。

吉藤 私は体調が悪く、30歳で死ぬと思っていたので、残りの13年で何ができるかと考えて、1年目に人工知能を研究するために香川県の高専(高等専門学校)に行きましたが、人工知能では人の孤独は癒やせない、本当の孤独の解消は人と人との間にしかない、と気づきました。高専は中退して、早稲田大にAO入試で進学しました。それから人と人とのコミュニケーションについて、追求し始めました