吉藤 向かないものもたくさんありましたが、少林寺拳法や、ミニバスケットボール、体操教室に通わせてみたり、絵や手旗信号を習わせてみたり。ボーイスカウトでは、ロープを扱うのは得意で、ツリーハウスを作るなどは夢中になりました。何をやればいいか分からない子どもの私に、とりあえずこれをやってみたら、といろいろやらせてみて褒める。それは、うちの両親が得意としたことだったと思います。「石の上にも3年」ではなくて、向いてないならやめたらいいよ、とトライ&エラーをさせてくれました。
高濱 習い事をいろいろさせる判断はお父さん主導だった?
吉藤 母も「とにかく、いろいろやってみようよ」というタイプでした。1回やってやめることもあったので、周囲からは「飽きっぽい」「続かない」という評価は得ていましたね。
高濱 子育て相談していると、「『うちの子が習い事やめたい』って言ってるんですけど、どうしたらいいですか」という悩みが多い。「お子さんの目の輝きを見ないと分かりません」と私は答えますが、今ちょっと嫌がっている程度で、いつもはすごく面白がっているなら続けさせてもいいと思います。ただ、本人が決めることがとても重要。「自分で決める」がキーワードで、「やらされ」が不幸の方程式だと思います。
好きなことを受け止める親
吉藤 私は、折り紙が好きで、ずっと創作折り紙をやっていました。今でこそ、折り紙が得意な人は数学が得意になるといったイメージがありますが、当時は、折り紙なんて幼稚園でするものだよね、という時代だったので、中学生のころは、折り紙をしているだけでいじめられました。
でも、それでもやっぱり好きで、続けていました。親としては不安だったと思います。不登校だし、勉強もできないし、折り紙しか取りえがない。でも折り紙をやっているときは目が輝いていて、楽しそうにしているわけです。
両親は、「これでは食っていけないな」という将来への不安とは切り離して、できたものに対して、「こんなんできたんか」と成長を喜んでくれました。創作折り紙でバラを作ったときに、母親が喜んでくれて、そのリアクションをもらえたことがとてもうれしかったのを今も覚えています。
―― 「好き」を応援してくれるご両親だったのですね。親目線では、「そろそろ折り紙は卒業したら」などと言ってしまいそうです。
高濱 親はね、学習指導要領みたいに○年生のときにはこれをやって、ちゃんと1つずつこなしていかなくちゃ、と考えがちですね(笑)。
―― 親は、自分の尺度で「将来役立つもの」に夢中になってほしいと思ってしまうのかもしれません。
高濱 子どもが自分で伸びていくのと比べれば、親が考えることなんて、たかが知れてるからね(笑)。
吉藤 20年後には、役立たない可能性もありますしね。あと、両親が、変な「報酬形態」を提示しなかったこともよかったです。
高濱 ああ、それは大事ですね。「これ頑張ったらこれあげるよ」みたいな報酬形態はないほうがいいですね。好きになる心は無限大のはずなのに、報酬という枠組みを与えられると、それだけになってしまいます。
「いたずら力」も大事
吉藤 相手が嫌がるとハラスメントですし、いじめはダメですが、いたずらに夢中になるのもいいことだと思います。いたずらをしているときは、相手の反応が見たいというそれだけの気持ちで、いろいろ自分の頭で考えます。いたずらのために、何かものを作るのもいいですよね。相手がいいリアクションしてくれると、また新しいものを作ったり。同じことを繰り返しても通用しないことも分かってきます。
高濱 いたずらは大事ですよ。
吉藤 これは人が傷つくこと、これは怒られる、ここまではいけるなどが、早いうちに分かるのもいい点だと思います。
高濱 吉藤さん、「いたずら力」で1冊書けそう(笑)。
吉藤 いろいろ書けると思います(笑)、いたずらはたくさんやってきていっぱい怒られました。
高濱 親としては、座ろうとしている人の椅子をすっと引くといった致命的な事故になりそうなことだけ注意しておけば、後は「好きにいたずらして失敗しろ、怒られてこい」でいいと思います。
吉藤 うちの母親は驚き上手でした。私がなんかやらかすと必ず驚いてくれるんで、いたずらのしがいがありました。
(後編に続く)
対談後編では「いいリアクションが飛び交う環境では人が育つ」「できないことが武器になる」などについて聞きます。
取材・文/小林浩子(日経xwoman DUAL)、撮影/花井智子
オリィ研究所代表
花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長