我慢強いのはいいこと?

―― 「我慢してやらなきゃいけないこと」と「好きなこと」のバランスは難しいですよね。

高濱 項目によっては我慢強さに価値はあります。クリエーティビティーや変革が必要とされる場合は、夢中力でしか突破できない。でもテストに合格するのは我慢強い人。入試はやるべきことを黙ってちゃんとやれる人たちが勝利します。予備校の先生もよく言いますが、医学部なんかも、黙って我慢してやる人でないと受からない。夢中力と真逆です。ただ、自分の主体的な関心で動いてないと、医師免許は取れても大発明には至らないでしょう。

吉藤 「こうしたほうがいい」というアドバイスがあったほうが動きやすい人、ある程度「これをこなしなさい」とルールを決められたうえで点数を競うことが好きなタイプもいます。いろいろな人たちがいますが、私はテーマを決められずに真っ白なスケッチブックをもらってそこから作ることが好きなタイプでした。そういうタイプの人に「これをしなさい」と言っても、難しいですよね。

 やっぱり我慢して何かさせられるよりも、それが好きで、夢中になっている人のほうが、ほとんどの場合、伸びると思います。その世界が好き過ぎて夢中になっていると、24時間没頭しても疲れない。例えば私はCAD(コンピューターによる設計)で描くのが好きで、休日があったら1日中描いてますし、たぶんお金をもらって描いている人より何倍も描いています。

 我慢するより、好きな方向で戦っていくほうが今の時代にはいいと思います。昔と違って、「じゃあ、この能力どう生かせばいいんだ」というときに、今はインターネットを使って自分を売り込むこともできますよね。自分の「夢中になっていること」を喜んでくれる人を自分でつかまえたり、そうしたコミュニティにうまく属したりする力が大事かなと思います。

させられる勉強の意外な効能

吉藤 私は、勉強は嫌いじゃないけど、試験が嫌い。つまり、させられる勉強、させられるテストが嫌いです。でも、受験勉強や試験の直前って、無性に部屋を片付けたくなる人は多いですよね。普段何もないときはやらないくせに、我慢させられているときは「現実逃避エネルギー」が最大化します。そう考えると、我慢させられる状況にある程度身を置いたほうが、結果的にほかの能力が伸びるかもしれません

 クリエイターになるような人は、あまのじゃくなタイプが多いと思います。やらなきゃいけないことがあるのに、それ以外のことばかりやるタイプは、逆にうまくそれを原動力にすれば、一番やらなきゃいけないことはやらないけど、2番目にやらなきゃいけないことが進むかも。

高濱 法律で、国民全員に、穴掘って、それを埋めなきゃいけない、と課したら、クリエーティブな国になるかも(笑)。

 人間世界の不思議ですけど、「好きにやりなさい」だけでは人は意外と育たないってこともあります。例えば、アートの世界に目を向けると、圧迫が強ければ強いほど打ち破ろうとするエネルギーが出て、それが新しいクリエーティブになる、という場合はありますよね。

親に感謝していること

吉藤 うちの両親の子育て方針でよかったことを挙げると、夢中になれることを探すのを手伝ってもらえた点。好きなことを見つけられない、というのは多くの方の悩みかもしれません。これは例え話ですが、「牛タンが好き」に至るまでには、いろいろなものを食べないとダメですよね。見るだけでは味は分からないし、中華料理ばかり食べていても牛タンに出合えないかもしれない。でもうちの両親は少しずつつまみ食いさせてくれました