罪悪感に捉われずに、負担を減らす方法

 心を疲れさせないためには、高過ぎる理想を設定しないことも大切だと思います。理想と現実がずれることによって悩みが生じるからです。理想に無理がある場合は目標値を下げることも必要になります。

 目標値を下げることに罪悪感を持つ方もいるかもしれません。しかし「罪悪感」とは「罪悪」そのものではありません。物事に善悪を付けているのは人間の心なのです。捉え方を変えて、過大な理想を課すことをやめることが、心の癒やしにつながるのだと思います。

目標値を下げることが必要なケースも
目標値を下げることが必要なケースも

 また、他人が過大な役割を押し付けてくる場合があると思います。例えば、上司が今の状況を考慮せず成果を求めてくる。そのような時は、負荷を下げてもらえるようにお願いをしなければなりません。

 しかし心が疲れていると「上司にNOを言うストレスに比べれば、黙っているほうがまし」と思って引き受けてしまいます。私もカウンセリングでこのような方に多数お会いしますが、そんなときにはあえて「見方を変えれば、黙ることで楽なほうを選んでいる、とも考えられませんか?」と語りかけてみます。

 すると、自分はつらい選択をしていたと思っていたのに実は楽なほうを選んでいた、ということにハッと気づかれるんですね。そうした心の癖を意識して「ここは気合いを入れて、できませんと言ってみよう」と、自分にとって難しいことにチャレンジするのだという意識を持てば、「負担を減らすことに対する罪悪感」から離れられるのではないでしょうか。

腕にはどんな役割がありますか?

 負担を減らすために話し合いをすること自体に疲れてしまうという方は、あらかじめ話し合う時間を決めておくといいでしょう。例えばパートナーとの話し合いだったら、「夜の10時から15分だけ話し合いをする」とお互いにスケジュールを決めておくと、それ以外の時間に文句を言ったり言われたりでイライラすることを減らすことができます。

 伝え方を工夫することも大切だと思います。「この家事はあなたのほうがうまいからお願いしていい?」と褒めたり、直接言いにくいなら文章で伝えたりと「相手がやる気になる伝え方」を見つけられるといいですね。

 これから私たちは、新型コロナウイルスという問題に対して、さまざまな変化を受け入れて生きなければなりません。しかし仏教の「無常」という言葉にある通り、世の中に常に同じ状態にあるものはなく、変化をすることは当たり前だともいえるのです。

 冒頭で述べた、空海の「境は心に随って変ず」という言葉を心に止めて、心の持ち方や行動を考えてみていただきたいと思います。心が変われば行動が変わり、行動が変われば心が変わります。

 例えば、「自分の腕は何のためにあるのか」を意識してみてはいかがでしょうか。人を突き放すために使う人もいれば、誰かを抱きしめるために使う人もいるでしょう。「私は家族を抱きしめるためにこの腕を使いたい」と意識することで腕に役割を与えることができます。そして、役割を定義すれば、使い方を間違えたとき、気づくことができます

 そうやって普段無意識に行っていることに焦点を当てて、ひとつひとつ意識していくことが、きっと良い未来につながることと思います。


羽鳥裕明(はとり・ゆうみょう)
心理カウンセラー
羽鳥裕明(はとり・ゆうみょう) 大学卒業後、設計技術者として東証一部上場企業に就職し9年間勤務。結婚を機に退職し、仏縁あって真言宗の僧侶となる。悩みを抱える人々に寄り添いたいという思いから、参拝者が年間数万人の大きな寺院を辞し、小さな寺院の住職をしながら心理カウンセラーとしての活動を開始。企業や行政のメンタル相談員、医療分野での研修講師、講演活動を行う。現在は地元群馬の他、東京などで悩み相談を受け付ける「駆け込み寺」を主宰している。