東京大学教授の山口慎太郎さんが、子育てに関わる具体的な数字を提示しながら、見えてきた課題について紹介する本連載。第1回は、男性の育休取得が家庭や社会にもたらす効果を解説してもらいます。

 「たとえ1カ月でも男性育休を取得することで、父と子ども、双方の人生が変わります」

 山口さんは、父親の育児休業取得に伴う親子のメリットは大きいと強調します。

 カナダのケベック州では2006年、男性だけが取得できる育休を5週間設けるなど育休制度を改革しました。これによって男性の育休取得率が21%から75%へと大幅に上昇しました。

 同州の制度改革の効果を分析した論文(※1)によると、男性の育休取得が増えたことで、子どもが3歳になったときの父親の育児時間が、改革前に比べて20分増の1時間50分、家事の時間も15分増の1時間25分に延びました

 家事育児に父親がコミットすることで、さまざまな良い効果が見込めると山口さんは指摘します。「父子や夫婦間のつながりが密接になり、家庭環境が安定します。これによって子どもの情緒に良い影響を与えることが期待できます。ノルウェーでは、父親が育休を取得した場合、16歳になったときの子どもの偏差値が1ほど上昇したとの調査結果も発表(※2)されています」

 妊娠・出産を通じて心身共に「母になる」準備を進める女性に比べ、男性は「父になる」心の準備がなかなかできないものです。しかし「配偶者の出産後、早いうちに男性が育休を取ることで、父親としての自覚を促すことができます。またこの期間に家事・育児の能力を高めておけば、その後の共働きもスムーズに進むのです」とそのメリットを言います。

 ただし、夫が不慣れな家事育児に戸惑い、結局妻にやってもらっているうちに育休が終わってしまった……では意味がありません。育休の過ごし方については「夫婦で事前に作戦を練ったほうがいい」とアドバイスをします。

 例えば積水ハウスは、育休取得に際して「家族ミーティングシート」を用意し、事前に夫婦で家事育児の分担計画を立てる取り組みを進めています。「妻の側に『家事育児は女性中心でするもの』というジェンダー規範が残り、ついつい自分でやってしまうことも考えられます。夫のできることを増やすためにも、事前にある程度の役割分担を決めておきましょう」