麻衣が、SNSに顔を載せて動画を投稿してみたところ、あっという間に再生回数が2万回超えに――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった
第10話 がんは知らないうちに母の体の中で育っていた
第11話 なにが「同期初の女性部長」だよ!
第12話 「女性ということで」とは一体どういう意味か
第13話 わたしはわたしで、仕事をし、家族を守る
第14話 仕事が長続きしないのは、いつも人間関係にあった
第15話 自分がちっぽけで価値のない存在のような気がした
第16話 不思議と、西には自分のことを話したいと思った
第17話 気づくと、実家に彩子の居場所はなくなっていた
第18話 育休明け直前、世界は混沌とした状態に陥った
第19話 夫は子の意味不明な行動が我慢できないようだった
第20話 かつては泣きわめく子がいると、運が悪いと感じていた
第21話 笑えなかったのは、夫婦関係がうまくいっていないから
第22話 黙ると夫の機嫌が直る、そのパターンに慣れていた
第23話 離婚という選択肢が、くっきりと目の前に現れた
第24話 香水を付けるようになったのは、アルバイトを始めてから
第25話 あの時、若い女は得していると思っていたのが歯がゆい
第26話 その時初めて、正社員との間にある溝がくっきりと見えた
第27話 ママになり変わってしまった菜々の姿が少し怖かった
第28話 求婚というより、許可を出された感じがした
第29話 憧れてたインフルエンサーという立場に、ようやくなれた
第30話 好きなこと、自己実現… 自分の求める生き方に気づいた
第31話 やっと愛美に認めてもらえた気がして、うれしかった←今回はココ

■今回の主な登場人物■
板倉麻衣…新卒で入社した食品メーカーをやめ、今はYouTubeでVlogを発信している
江原愛美…麻衣の食品メーカー時代の同期。同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー

「ええっ どういうこと!?」

 それまで麻衣は自分の姿について、顔を映さずに服のコーディネートを載せたり、帽子やマスクを使ったりと、慎重にぼかしていた。正面から顔を出すのはなんとなく恥ずかしいと思ったのだ。

 初めて顔を出した先は、メインユーザーが10代~20代前半と言われる動画再生アプリだった。そこでは年若いユーザーの多くが屈託なく顔を載せていた。水着と見まごう露出度の高いドレスを披露していたり、美容整形の体験談を語っていたりと、やりたい放題のデジタル世代を見ていたら、なんだか心が吹っ切れた。どうせ自分の知り合いは誰も見ていないし、いっちょやってみるかと麻衣は思った。さらに彼女を勇気づけたのは、動画再生アプリの中にある「顔面補正機能」である。なるほどこれが肌を滑らかに整えて、目鼻の良い部分を強調してくれるのか、と感動した。実物よりも何割かましの顔になれるのならば、人に見せたくもなるだろう。

 トレンドの「急上昇」の一番上にあった音楽を使った。編集作業まで入れても合計30分ほどである。過激な動画クリップの中で、自分の出したものなどすぐ埋もれるだろうと思っていたら、どういうわけか、あれよあれよと再生回数が伸び、あっという間に1万回を超えてびっくりした。と思ったら2万回を超えた。

「ええっ どういうこと!?」

 思わず麻衣は声を上げたものである。

 同じような動画をいくつも載せて、「31歳」という年齢も公表したところ、年下の女の子たちから「若い!」「かわいい!」と絶賛された。気を良くした麻衣は、さらにダンスをしてみたり、変顔をしてみたりと、いろいろやった。フォロワー数はみるみる3万人に達した。

 DM(ダイレクトメッセージ)に企業からのPR案件が舞い込むようになった。1つ2つ来た時にはこういうものかと思ったが、ある朝DMボックスを開けたら42件入っており、突然、世界が開けた気がした。

 麻衣はすっかり自信を持ち、今度は自分の動画チャンネルを開設した。

 部屋のあちこちを動画に撮って紹介する「ルームツアー」をやってみた。これもまた、動画再生アプリのフォロワーからの要望が理由だった。「Maiさんのお部屋をもっと見たいです!」「ルームツアーしてください!」年下の女の子たちに言われてうれしくなった。