コロナのおかげで麻衣が執筆しているネットコラムの配信会社は潤っているようだったが、しばらくすると――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった
第10話 がんは知らないうちに母の体の中で育っていた
第11話 なにが「同期初の女性部長」だよ!
第12話 「女性ということで」とは一体どういう意味か
第13話 わたしはわたしで、仕事をし、家族を守る
第14話 仕事が長続きしないのは、いつも人間関係にあった
第15話 自分がちっぽけで価値のない存在のような気がした
第16話 不思議と、西には自分のことを話したいと思った
第17話 気づくと、実家に彩子の居場所はなくなっていた
第18話 育休明け直前、世界は混沌とした状態に陥った
第19話 夫は子の意味不明な行動が我慢できないようだった
第20話 かつては泣きわめく子がいると、運が悪いと感じていた
第21話 笑えなかったのは、夫婦関係がうまくいっていないから
第22話 黙ると夫の機嫌が直る、そのパターンに慣れていた
第23話 離婚という選択肢が、くっきりと目の前に現れた
第24話 香水を付けるようになったのは、アルバイトを始めてから
第25話 あの時、若い女は得していると思っていたのが歯がゆい
第26話 その時初めて、正社員との間にある溝がくっきりと見えた
第27話 ママになり変わってしまった菜々の姿が少し怖かった
第28話 求婚というより、許可を出された感じがした
第29話 憧れてたインフルエンサーという立場に、ようやくなれた
第30話 好きなこと、自己実現… 自分の求める生き方に気づいた←今回はココ

■今回の主な登場人物■
板倉麻衣…新卒で入社した食品メーカーをやめ、今はWEBライターとして活動中。YouTubeでVlogも発信している
江原愛美…麻衣の食品メーカー時代の同期。同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー

麻衣はバカにされたような気がした

 しばらくすると、原稿料の支払いを、アクセス数をもとにした歩合制にすると言い渡された。

 途端に麻衣の記事の単価は下がった。納得のいかない勝手な取り決めだった。言われていたことと違うと麻衣は抗議したが、担当編集者も平謝りするばかりでらちが明かない。どうやら麻衣の知らないところで経営陣に変更があり、AI(人工知能)に記事を執筆させるシステムを作り出そうと、社を挙げてその方面に投資をしているらしい。

 小遣い稼ぎくらいの感覚でやっていた仕事だったが、簡単に単価を下げられたことで、さすがに麻衣はバカにされたような気がした。結局、見出しが勝負ってだけじゃん。そう思ってからは、コピペの寄せ集めみたいな文章をちゃっちゃっと書いて、見出しに刺激的な文言を入れるようになった。以前はなけなしのオリジナリティーをにじませようと頑張っていたけれど、そんなもの1円にもならない。

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 これらは、コロナ禍に入ってから麻衣が書いたコラムの中で、高ランク入りしたものだ。

 こんなものを読む人たちは、いったい何を考えているんだろうとも思いながら書いた。

 笑いながら読むならまだしも、本気で参考にされていたら引く。書き手でありながら麻衣は読者をバカにした。バカにしながら、「彼女をたくさん喜ばせた後に、突き放しましょう」とか「安心と不安を交互に与えて彼女の心を揺さぶるのです」などと書き続けた。

 まじでこんなの参考にして女性に接する男は一度死んだほうがいいな、と毒づいたりあざ笑ったりしながら書いていたのは最初のうちだけで、50本、100本と載せていくうちに、心のどこかが死んでいった。麻衣の心が死ねば死ぬほど、アクセス数は良くなった。