拓也と菜々の新居を訪問した帰り道。麻衣と愛美、北川、坂東の4人は、駅前のショットバーで久しぶりに飲みに行く。ところが、愛美は先に帰ってしまう。疲れ果てて帰宅する愛美を待ち構えていた光景に怒りがこみ上げる――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった←今回はココ

■今回の主な登場人物(食品会社の同期たち)■
江原愛美…同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー
優斗と春斗…愛美の息子
ベビーシッター…愛美が拓也と菜々の新居を訪問している間、子どもたちと留守番をしていた女性

我知らずため息が漏れた

 久しぶりに同期たちと集まれたその日、愛美はなんだかひどく疲れていた。

 ベビーシッターと契約した予定の帰宅時刻より一時間以上早く帰ることになるのをもったいないと思ったが、実際のところ、一秒でも早く家のソファに突っ伏したかった。

 列車は高架の上を走り、やがて大きな川を渡っていく。休日の夜だから、普段よりはすいているけれど、座れるほどではない。片手でつり革を握りながら、愛美は揺れに身を任せた。

 窓の向こうで、川沿いに建つタワーマンションの、幾十もの窓の明かりが、川面を明るく染めているのが見えた。

 あのマンションの窓からは、夜の街がどんなふうに見下ろせるのだろう。たとえば一番上のあの部屋からは……?

 愚にもつかないことをぼんやり考えていたら、我知らずため息が漏れた。すると、前に座っているサラリーマン風の男性が目だけ上げて、こちらを確認するように見た。

 無意識に、ため息の音をまわりに聞かせていたらしい。愛美はそれを恥ずかしく思った。自分らしくないという気がし、口元を引き締めた。

 小さく首を振って、スマホを取り出し、今日招いてくれた三芳拓也と菜々にお礼のメールを書き送った。顔を上げると、既に列車は川を渡り終えていた。

 毎晩使っている列車、毎晩つり革につかまりながら見ている眺め。川を渡り終えると、一気に住宅地の質感が変わる。建物が平べったくなり、黒い夜空が広がる。街から町へ。生まれ育った町で子どもを育てている愛美にとって、この景色は懐かしくもあり退屈でもあり、温かみと諦念を同時に感じさせるものだった。