新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、感染状況が少しずつ好転していく。そんな中、久しぶりに菜々の元へ彩子から連絡が入り――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった
第10話 がんは知らないうちに母の体の中で育っていた
第11話 なにが「同期初の女性部長」だよ!
第12話 「女性ということで」とは一体どういう意味か
第13話 わたしはわたしで、仕事をし、家族を守る
第14話 仕事が長続きしないのは、いつも人間関係にあった
第15話 自分がちっぽけで価値のない存在のような気がした
第16話 不思議と、西には自分のことを話したいと思った
第17話 気づくと、実家に彩子の居場所はなくなっていた
第18話 育休明け直前、世界は混沌とした状態に陥った
第19話 夫は子の意味不明な行動が我慢できないようだった←今回はココ

■今回の主な登場人物■
三芳菜々…食品メーカーに同期入社した拓也と結婚、1児の母
三芳拓也…菜々の夫、1児の父
三芳樹(いつき)…菜々と拓也の間に生まれた2歳の息子
岡崎彩子…派遣社員として食品メーカーに勤めていたが、菜々の産休中に転職した
西…菜々の同期

拓也が出社したがった理由も分かった

 自治体からワクチン接種の案内が来た頃から、世の中の感染状況が少しずつ好転していったように思う。

 会社に出勤する日は、週2日から、週3日へ増え、最終的には週4日となって今に至っている。

 これは菜々にとって、ありがたくもあり、少し疲労を感じる変化だった。自宅で働いているときは、ヘビーなクレーム電話が転送されてくると、日常をおかされるような気がして気分が落ち込んだ。感染する可能性を考えると、常に不安はあったが、それでも家という日常から離れることで、頭も心も切り替わるのを感じた。コロナが始まったばかりの頃はあんなに気を使っていた拓也が、それでもちょくちょく出社したがった理由も分かった。

 とはいえ、電車に乗って出勤するのは体力的に疲れる。以前はここまで疲れなかったと思うのだが、育休とコロナ禍で家にいる時間が長かった分、体から現場感が薄れたというか、ビル街を歩くだけで疲れるのだ。出産で体が変化したともいえるが、それよりも、樹の世話で普段から疲労が蓄積しているのを感じる。生え際に白髪がちらほらと見えてくるようになった。ついぷちぷちと抜いてしまう。目の下のくまも目立つ。しかし、ずっとノーメイクで過ごしていたからか、マスクで隠せない顔半分にファンデーションを塗るのすら面倒くさい。

 だが、変わりつつある世の中に順応していかなければならない。

 先々月には、4人以上の会食が許されるムードになった。そして、今月からは8人と、社会の基準もおおらかになった。ワクチン接種が効いたのか、感染者数が大きく減っている。世の中がようやく落ち着きを取り戻し、外交的なムードになってきたように思う。

 周りを見ていると、コールセンターの契約職員たちは連れ立ってランチに出かけたり、仲のいいグループで一緒に弁当を食べていたりする。感染症騒動はゆるやかに終焉(しゅうえん)を迎えつつあるように思う。クルーズ船の集団感染が報じられた頃は、消毒用のアルコールを見つけるたびに買ってくるほど神経質だった拓也も、最近は、うがいや手洗いの仕方がだいぶ適当になってきた。

 そんな週末のある日、コロナ前まで菜々のそばの部署で働いていた彩子から、LINEをもらったのだった。

次ページから読める内容

  • 「もしかして、彼女、西と結婚する気で辞めたのかな」
  • 「それ、俺も行くわ」
  • 菜々は冷静に自分たちを見てもいた

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