飲み直しのはずが、彩子と西はファミレスに入る。西が彩子を誘った理由は――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった
第10話 がんは知らないうちに母の体の中で育っていた
第11話 なにが「同期初の女性部長」だよ!
第12話 「女性ということで」とは一体どういう意味か
第13話 わたしはわたしで、仕事をし、家族を守る
第14話 仕事が長続きしないのは、いつも人間関係にあった
第15話 自分がちっぽけで価値のない存在のような気がした
第16話 不思議と、西には自分のことを話したいと思った←今回はココ

■今回の主な登場人物■
岡崎彩子…派遣社員として食品メーカーに勤める
西…菜々の同期で彩子と同じ職場で働く

急に気まずさを感じた

「え、今からですか」

 彩子が確認すると、

「あー、やめましょやめましょ、もう遅いですからね」

 と、西がいきなり話を収束させた。

 その素早さに彩子はつい笑った。さっき、まだ早いと言ったばかりなのに。

 それでつい、

「わたしはいいですよ」

 と、彩子は言った。西の顔がすぐさま明るくなる。

「じゃ、行きますか」

「でも、ここだとあの人たちと会っちゃうかもしれないから」

 彩子から別の街を提案した。あの人たち、という言い方に、共犯にでもなったかのような甘やかさがにじんだ。最寄り駅から自分の家までの途中にあるターミナル駅を挙げると、西は救われたような顔をして、「そうしましょう」とすぐに乗った。

 それから彩子は西と電車に乗り、街を移動した。飲み直し、と言ったわりに、結局2人はファミレスに入ったのである。

 安いハウスワインを頼み、形ばかりの乾杯をした。西は赤を、彩子は白を。

 あかあかとした店内で、特に酔っぱらってもいない彩子は、急に気まずさを感じた。道端や電車の中では何とはなしに続いていた会話が、ぎこちなく止まる。西も、ワイングラスをいじりながら、何となくそわそわと店内を見回している。

 仕方なく、

「混んでましたね」

 と、彩子から言った。

 ここに来るまでに2軒ほど居酒屋を見て回ったのだったが満席で入れなかったのだ。

「混んでましたね」

 西が同じ言葉を返した。

 しかし、そこから話は広がらなかった。雑談というのは、思うより難しいものである。つまりは、道端と電車内で一通りのネタが尽きたのだった。

次ページから読める内容

  • それにしても、この沈黙は何だろう
  • 彩子は誇らしい気持ちになった
  • 自分の卑屈な物言いを悔やんだ

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