自身が39歳、子どもが3歳のときに乳がんを告知され、右乳腺全切除・再建手術を行ったライターの藍原育子さん。連載最終回となる今回のテーマは、「がん患者との接し方」について。家族や友人、職場の人など身近にがん患者がいるという場合も少なくないでしょう。親しい友人や同僚ががんだと知り、なんと声をかけたらいいのか分からない。励ますつもりでお見舞いに行ったのに、あまり喜ばれなかったのはどうしてだろう……。そんなときに参考にしてほしいのが、今回の記事。記事3ページ目からは、国立がん研究センター東病院でがん患者の支援を行う、坂本はと恵さんに話を聞きました。

「誰にもがんを知られたくない」とひた隠しに

 告知からしばらくは「誰にもがんを知られたくない」と思っていました。そのため両親にも「良性腫瘍の手術を受ける」と言って入院し、退院後「病理検査の結果、悪性だったみたい。でも悪いものは取ったからもう大丈夫」と短く伝えました。このとき「がん」という言葉を使わずに、あえて「悪性」と口にしたのを覚えています。

 しかし家族にも友人にも仕事先にもがんを隠し通すということは、それだけ大きな秘密を一人で抱えることになります。手術をした結果、右腕が上がりにくくて電車のつり革が握れないときも、頭に靄(もや)がかかったようで全く仕事が進まないときも、「大丈夫だ。頑張れ」と自分で自分を励ましながら、なんとか毎日をやり過ごしていました。

 告知から8年たった今では「少しは周りを頼ればいいものを……」と自分でも思います。混乱の最中にいた当時は、「人に弱みを見せない」ことで心のバランスを保っていたのだと思います。

 しかしだんだんと一人では抱えきれなくなり、次第に誰彼構わずにがんであることを打ち明けるようになりました。仕事の関係者、久しぶりに会う友人、しばらく休んでいた習い事のメンバー。大体お酒の席で、ほどよく酔いがまわってきた頃に「実は乳がんになっちゃって」と笑いながら切り出しました

 多くの場合、それまで盛り上がっていた場がしんと静まり返り、ややたってから「いや、でもすごく元気そう」などと声がかかります。

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