自身が39歳、子どもが3歳のときに乳がんを告知され、右乳腺全切除・再建手術を行ったライターの藍原育子さん。前回はがんを告知された直後の、リアルな心の動きについてお伝えしました。今回のテーマは「がんを治療しながら働く」ことについて。フリーランスの藍原さんは周りにがんを隠したまま入院し、退院後すぐに仕事に復帰。無理を重ねて心と体のバランスを崩したといいます。

そんな藍原さんが、国立がん研究センター東病院でがん患者の生活や仕事の支援を行う、坂本はと恵さんに話を聞き、「がんを患っても働くために何をどうすればいいか」を伝えます。

産後から感じた「今までのように働く」ことの高い壁

 がんの診断が下り、さまざまな「どうしよう」が山積みでしたが、そのひとつが仕事でした。それまで身近でがんになったのは、親戚や以前の職場の上司など、いずれも高齢の人ばかり。自分と同じような年齢で、それも働くママでがん闘病中の人など周りにいませんでした。

 子育てしながら治療すると考えただけでもめまいがしそうなのに、なおかつ働くことなんてできるのだろうか……。入院の時期や治療方針が次々と決まるなか「このまま働くのかそれとも辞めるのか」、決断できずにいました

画像はイメージ
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 そもそもがんを告知される前の出産後から、以前のような働き方ができないことに、ずっと焦りを感じていたのです。妊娠前は徹夜で原稿を書いたり、寝る時間もなく翌日の取材に行ったりすることも当たり前。普段から生活の8~9割が仕事という、ワーク・ライフ・バランスに逆行するような働き方をずっとしていました。

 そのため身近に出産後のロールモデルになるような人は見当たりませんでした。「いつまでも続けられる仕事ではない」と妊娠が分かると同時に転職する人や、「子どもが小学生になるまでは無理」と言って現場を離れる人。さて私はどうしたものか……と答えが出ないまま子育てが始まりました。

 予想通り、子育てと仕事の両立は簡単なものではありませんでした。夫は出版社勤務の編集者なので、午前中は育児を「手伝って」くれますが、昼すぎに出社したら、帰りが何時になるかは分かりません。保活を経てなんとか保育園に入れたので、ファミリーサポートやベビーシッター、どうにもならないときには母の力を借りながらなんとか仕事の時間をつくっていました。

 しかし目の前の家事や育児で頭の容量がいっぱいで、なかなか満足な原稿が書けません。新しい企画を提案しようにも本を読む時間もないし、絵や映画を見る時間もない。インプットができないので言葉を紡ぐための泉は干上がっていて、つぎはぎだらけのような雑な文章しか書けなくなっていきました。そして徐々に仕事は減っていきました

 がんを告知されたのは、そんなときでした。