お迎えまであと1時間。どうして私が…

 診察室を出てその後の検査や今後の手術について看護師から説明を受けながら、ぼんやり壁の時計を見たのを覚えています。16時を過ぎていて、保育園のお迎えまであと1時間ほどしかありませんでした。

 突然「がん患者」になった自分と、お迎えに行くいつものママとしての自分。仕事と家事と育児ですでに精いっぱいなのに、一体どうなるんだろう。何をどうしたらいいんだろう。その場にうずくまって叫びたいのに、心の奥はしんしんと冷えていくようでした。

画像はイメージ
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 その後の検査によって、私のがんは乳がん全体の3%ほどしかない「粘液がん」であることが判明。医師からはとても珍しいタイプのがんなので、分かりにくかったと説明がありました。

 「早期発見は大切だが、検診を受けても誰もが100%がんを発見できるわけではない」。以前そういった記事を書いたことがあります。いくら医療が進歩しても、医療に「絶対」や「確実」はないのだと。だけどどうして、よりによってそれが私なんだろう。なぜ自分がこんな目に遭うのかというやり場のない怒り、そして「死ぬかもしれない」という恐怖。娘はどうなる? 仕事はどうする? 家事は誰がやる? など、告知を受けてからしばらくは完全にパニック状態でした。

 毎日娘を保育園に送り、仕事をし、合間に乳がんについて猛烈に調べました。かつて乳がんの記事を書いたときには他人事だった、「抗がん剤」「5年生存率」「再発」といった言葉が、自分事として生々しく迫ってきたのを覚えています。ああこれは現実なのだ、どこかの誰かの話ではなく、自分のことなのだと。でもそれがなかなか受け入れられませんでした。

 また「次の診察で手術日を決めましょう」と医師から言われていたため、医師が勧める「温存手術」についても調べました。すると、自分の乳房が残る半面、術後5~6週間は放射線治療に通わなければならないこと、また乳房がひきつれたり、乳頭の位置がずれてしまうこともあると分かりました。

 しかし温存手術でなければ、乳房をすべて切除する手術(乳房全切除術)になります。そして全切除術を行った場合は、その後の乳房を再建するかしないかの選択もしなければなりません。

乳がんの標準的な手術法

乳房温存手術…乳がんのある乳房の一部分のみを切除して、できるだけ乳房を残す方法。残った乳房には、放射線療法を行うことが原則となる。
乳房全切除術…大胸筋と小胸筋を残してすべての乳房を切除する手術。
乳房再建…手術によって失われた乳房を作り直すこと。体の一部(おなかや背中の脂肪や筋肉など)を胸に移植する方法と、人工乳房(インプラント)を使う方法がある。

 とても一人では決められず、気力を振り絞って、乳がん経験者が自らの治療体験を語ってくれる患者会に出かけたり、セカンドオピニオンを受けたりしながら検討。最終的には右胸の乳房を全切除し、同時に再建する方法を希望しました。最初に診断してくれた病院とは折り合いがつかず、別の大学病院へ転院して手術を受けました。