勉強よりも自由な遊びが重視され、「自分で考えて、何かを変えようと行動する」ことを目指すフィンランドの保育・教育の在り方は、「起業家精神を養う保育」ともいわれ、日本でも教育関係者や政治家の間で注目を集めています。今秋には18歳までの教育を義務教育に。通知表も先生からの一方的な評価にならないよう生徒自身の目標設定と振り返りを取り入れるなど、新しい試みを導入し続けています。そんなフィンランドでは、「家の近くの学校が一番いい学校」とされ、エリート校がなく、小学校受験も中学受験もないといいます。学校内で安く受けられる習い事の取り組みも始まりました。変わり続けるフィンランドの義務教育事情について、東京・港区にあるフィンランド大使館で働く堀内都喜子さんがリポートします。

2カ月半の夏休み中、宿題は出ない

 8月中旬、フィンランドの学校では新学年が始まりました。2カ月半の夏休み中は全く宿題がなく、新学期が始まる1週間ほど前に電子連絡帳に新たな時間割やクラス情報、初日の集合時間などの連絡がきますが、新学期は始業式はありません。小学校入学時ですら入学式はなく、学校の玄関に親子が集まり、先生に名前を呼ばれたら子どもたちだけが教室に入るだけ。長い挨拶も親の出番もありません。

 そもそもフィンランドの学校は保護者の負担を極力なくしています。ほぼすべてが公立学校で給食も無料。弁当持参が求められることもありません。PTAもなく、面談や親が集まる行事は共働き家庭が多いため夕方に行われます。毎日の宿題も小学生はそれほど多くなく、シンプルなものばかり。教科書や教材も必要がなければ持ち帰らなくてもいいため、宿題や忘れ物の確認などの時間も省けます。そういった小さな積み重ねが、保護者の負担軽減につながっています。

 ただ、新学期には家庭の協力が必要なことがあります。それは教科書のカバーがけ。フィンランドは大学まで教育費が無償で、義務教育では文房具も含めて必要最低限のものは学校からもらうことができます。教科書ももちろん無料配布されますが、これはあくまでも貸し出し。使い終わったら返却し、次の年には違う人が使います。従って、大事に使うことが求められます。まだ新しく、カバーのない教科書の場合は、透明なシール状のビニールのカバーをかけるのですが、たいていは親の役目となります。ネットには、どうやったら気泡を作らずにきれいにカバーがかけられるかのHow To動画があふれています。

 教科書が貸し出しなのは、エコで、大切に使うことが学べていいと思う人もいるかもしれませんが、その背景には自治体の財政不足があります。フィンランドではあらゆる人に平等に教育機会が与えられるよう公費で多くを賄っている分、常に節約、経費削減が求められています。教科書も本来であれば毎年変えたくとも、実情は数年、時には内容が多少古くともそれ以上使用していることがほとんどです。社会科の教師をする友人は、学校で使用している教科書の記述が古過ぎて困るとよく嘆いていますが、そこは教師の説明や、新聞・ネットなどで生きた教材を使用することでカバーしているようです。

 学校に関する親の負担は少ないとはいえ、放課後の話となると別で、親の悩みの種になっています。子どもたちは午後1~2時に授業終了。学童はありますが、有料で午後5時まで。しかも、低学年しか利用できません。小学生の親はフレックスタイムや在宅などを利用したり、夫婦はもちろん友人家族とも協力したりして、子どもだけで留守番する時間を少なくするよう工夫しています。また、この国では小学校入学と同時に携帯電話を持つのが当たり前になっています。授業中の使用は禁止されていますが、放課後のいざというときのために携帯電話は必須な部分もあります。