200人を超えるセミナー参加者のうち教員からは、もどかしい実情を訴える声が続出。ニューヨーク育英学園側による模擬授業を受け、一教員としてできることには限界があると分かっていながらも「何ができて、何ができないか」という点について議論していました。その後、北海道と静岡県の学校から依頼を受け、学園側が個別の研修会を開き、機材の操作方法や保護者同意書の作り方などを具体的に伝授したといいます。

ICT教育で後れを取らないためにも

 3月初めに始まった日本の一斉休校を受け、一部の国立・私立学校ではオンライン学習が展開され、授業が進んでいると聞きます。半面、文科省の調査(4月16日時点)によれば、「同時双方向型のオンライン指導」を実施すると回答した自治体はわずか5%にとどまっており、公立校にお子さんを通わせる保護者の不安は募っていると思います。

 日本で遅々としてオンライン学習が進まない現状について、ニューヨーク育英学園の岡本学園長は「海外の学校なので、伸び伸びと対応できたという事情はあります。日本は横並びでやらざるを得ないのでしょう。ただ、今回をきっかけにオンライン学習の環境を整えておかないとICT教育でますます他国に後れを取ることになります」と危惧します。

 国外の先進事例を紹介しても「海外だからできるのでは」「日本ではどうせ無理」などと、どこか遠い国の話と受け止められる傾向が年々強まっています。そうした思考停止に陥るのではなく「日本人の、日本人による、日本人のための」双方向オンライン授業を速やかに実現させた同校の実例は大いに参考になるのではないでしょうか。

 平等に受けられるはずの学びの機会が、各家庭における学習端末や通信環境整備の不平等を理由に奪われているのは、実に皮肉なことです。通っている自治体の教育委員会や学校の方針によって、親任せの教育を余儀なくされるか、プロの先生による学校教育を受けられるかが左右され、児童・生徒間で生じかねない「学力格差」「学習機会格差」は、いずれ大きな社会問題となって浮かび上がるに違いありません。「ゆとり世代」ならぬ「コロナ世代」などという言葉が、この先一般的にならないことを望むばかりです。

文・写真提供/小西一禎