6月1日までのサーキットブレーカー(外出制限)が続くシンガポール。前編では、BBCキャスターの大井真理子さんが未就学児との過ごし方をリポートしました。今回の後編では、現地で教育アドバイザー・コーディネーターを務め、子どもがシンガポールの公立小学校と中学校に通う草埜圭紀(くさのたまき)さんが、子どもたちの学習についてリポートします。※学習内容などは5月1日時点のものです。

政府は親のリモートワークを指示してから休校措置に

 シンガポールでは4月7日から、国の要請により、医療や食料、エネルギーといったエッセンシャルな分野(生活に必要な分野)を除くほとんどの職場が一時閉鎖になっています。職場が閉鎖された翌日からは、学校も閉鎖になりました。経済活動の制限は5月5日と12日に一部、段階的に解除され、19日からは小中高の最終学年に限って登校が認められる予定ですが、そのほかの児童や生徒は引き続き、自宅待機となっています。

公園を通りすがるのはOKですが、子どもたちが遊ぶ遊具などは使用禁止です。テイクアウトの受け取りに出かけた家族連れが、道中、腰をかけて飲み物を飲んでいる時に罰金を課せられたという話も聞きました
公園を通りすがるのはOKですが、子どもたちが遊ぶ遊具などは使用禁止です。テイクアウトの受け取りに出かけた家族連れが、道中、腰をかけて飲み物を飲んでいる時に罰金を課せられたという話も聞きました

 コロナ対策を進める上で、学校の閉鎖は免れなかったと思います。しかし、シンガポールは共働きの多い国。医療従事者の中には自宅で子どもたちを世話するサポートがない方々もいます。またオンライン学習のためのデバイスを持ち合わせていない家庭や、子どもたちを放置してしまう家庭が少なからずあるという事実から目は背けられず、政府はいろんな納得できうる理由を国民に発信し、対策を打った上で、様子を見ながら外出制限の方向へ進めていったような印象です。

 事実、学校がクローズされたのは、エッセンシャルな分野ではない職場の閉鎖の指示を国が出し、親を自宅からリモートワークする方向へ切り替えた翌日のこと。まずは家庭環境をつくってから休校という、子どもたちを大切にしている姿勢はありがたく感じました。

 シンガポールにはSingapore Student Learning Space(以下、SLS)と呼ばれるオンライン学習のポータルサイトがあります。こちらは2018年の5月から既に開始されているポータルサイトで、ローカル小学校(原則として国民は全員、公立のローカル校へ在籍しています。国からの特別許可がないとインターナショナルスクールなどの私立へは国民は入学できません)に通う生徒は全員アカウントを持っています。

 このポータルサイトは普段から、宿題の一部に利用されたり、親子面談の際に並行して子どもたちに課されるオンラインラーニングに利用されたりしています。国や学校は、職場が閉鎖され親がリモートワークに切り替わる前の週に、実際にこのポータルサイトや、政府やそれぞれの学校が事前に練った他のオンライン学習内容が、フルデイオンラインラーニングの場としてうまく機能するかどうかを試しました。

 政府は当初、数週間はオンラインラーニングを週1回交えながら、普段通りの通学を行うと発表していましたが、実際には、すぐに"Full HBL(Home-Based Learning)"になりました。その理由として、感染元の不明なケースが増えてきたこともあると思いますが、このSLSの試行がうまくいった感触もあったのでしょう。既に利用している子どもたちからすれば、使いこなす準備ができていたことも、大きかったと思います。小学校低学年の子どもたちには少しハードルが高かったかもしれませんが。