世界各国で大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルスの感染拡大。保育園や児童公園閉鎖など、さまざまな規制が出ている国の子どもたちはどのように過ごしているのでしょうか。米国編ドイツ編に続き、フランス在住のジャーナリストでアーティストの永末アコさんが、パリの状況、共働きが多いフランスのテレワーク事情、フランス人のメンタリティなどについて、前後編に分けてリポートします。

美しいパリ、数字がもたらす恐怖

 新しい春の優しい光が、パリを満たしています。

 パリは今、40年ぶりに大気汚染がない空だといわれています。朝は窓を大きく開いて深呼吸ができます。まるで田舎にいるような甘い空気が鼻腔をくすぐり、驚きます。

 夜になると星も見えます。子どもたちと、バカンス先でしかできなかった星座探しができます。月があまりにもクリアで、パリの友人たちはこぞって、まるで月が新しく生まれ変わったかのように遠くに輝くその姿をソーシャルメディアに上げました。寝室にまぶしいくらいの月光が差し込むのが気持ちよくて、私はカーテンを引かず月光浴をしながら眠りに落ちます。

 すべてが、私がパリに住んで20余年来、初めてのことです。

 今までにない、そんな自然のサプライズと共に、フランス人は、今とても前向きです。しかし毎晩「今日の数字」が発表されると、息が一瞬止まります。前向きでありたい精神が揺らぎます。

窓から見たパリの風景。窓ガラスを誰か洗ってくれたのかしら?と思ったら、そんなことはなく、ただ、外の空気が透明にキラキラと透き通っているだけなのでした
窓から見たパリの風景。窓ガラスを誰か洗ってくれたのかしら?と思ったら、そんなことはなく、ただ、外の空気が透明にキラキラと透き通っているだけなのでした

 毎日ものすごい勢いで人々が亡くなっています。そしてその数は増えるばかりです。マクロン大統領の「今フランスは戦火にある」の言葉、ヴァルトゥ仏医療連盟長の「私たちは溺れる寸前にある、今、足がつかなくなり始めている」の言葉が、現実味を帯びます。

 「数字」がこんなにも恐怖をもたらすことを、知りませんでした。悲しみをもたらすことは、知っていたかもしれませんが。