一つひとつ子どもの意思を確かめるように

 2年生に進級した2021年4月、発達障害を専門に扱うクリニックで出た診断は、学校についていけないのではなく、学校のスピードが彼にとっては遅いというものでした。

 この結果について、山本さん夫婦はスクールカウンセラーの先生からも”学校という環境が現在の本人には合わない”という説明を改めて受けて、長男のつらさを客観的に理解できた、といいます。それを受けて2年生になってからは、学校は週に1回の登校か放課後の家庭訪問という形で進めているそうです。

 今もリモートワーク中心の山本さんは、毎日ランチを一緒に食べるなど近くにいることを心がけているそうですが、他にも大きく変わったことがあるそうです。

 「すべてのことをルーティンにして当たり前にしないようになりました。一つひとつを息子に質問して、意思を確認するところから始めています。例えば、学校について。行く日になったらまず『今日、学校に行く?』と聞く。そこで『行きたくない』と言ったら、『じゃあ、先生が家に来るのは?』と聞く。それも『嫌だ』と言ったら、その日はどちらもしない。子どもファーストです。

 ただ、正直自分でもまだ徹底しきれていないところもあります。少し前に息子が担任の先生と『〇日は学校へ行く』と約束していたので、僕としてはどうにか約束を守らせないといけないと思い、その日は無理やり学校に連れて行ってしまったんです。そうしたら、スクールカウンセラーの先生に怒られてしまいました(苦笑)。焦ってしまうと、親との信頼関係に支障を来す恐れがあるとのことでした。これは本当に反省していて、息子にもちゃんと謝りました」

 いろいろ学び、知識を身に付けたり、気づきを得たりしても、自分にこびりついた考え方や価値観を取り除くのはとても難しいことです。また、一つひとつ子どもの意思を確かめてそれに付き合うのは、時間もエネルギーもかかります。そんな現状について、最後に山本さんはこう話しました。

 「このタイミングで長男と向き合うことは、自分の人生において優先度の高いテーマだと感じていて、幸いなことに今はそれができる働き方ができています。だからこそ、今は見ないふりをせずに向き合っていこう、と腹をくくっています」

取材・文/杉山錠士 編集/田中裕康 イメージ写真/PIXTA

<パパライター&パパ編集 取材後雑談>

田中(編集):今回のお話は「不登校」でしたが、これは非常に難しいテーマですよね。親世代としては「学校は行くものだ」という思い込みがあるから、押し付けてはいけないと思いつつも、子どもにプレッシャーをかけてしまう……。

杉山(ライター):僕の長女も不登校を経験しているので、行かなくなったときの「どういうこと?」と思った山本さんの気持ちはすごく理解できました。そして、その原因を娘の中に探してしまったことも同じです。いじめられた? それとも先生が嫌なのか? 体調でも悪いのだろうか? そんなふうにいろいろ考えて、調べまくりましたね。最終的には、僕が「不登校でもいいんじゃない」と言い始めて、妻も少しずつ納得していった、という感じでした。

田中: 不登校というのは思っているより身近な話というか、特別なことではないんでしょうね。そもそも学校という閉鎖的な空間に同学年の子どもたちが何十人も机を並べて生活していれば、適応できない子どもがいて当たり前だとも思います。

杉山:実際、不登校になる子どもは一般的に思われているよりも多いと思います。だからこそ、共有できる経験を伝えることは大切ですよね。山本さんが「自分はどうなんだろう?」と意識を自分に向けたことは目からうろこでした。また、懐が広くて穏やかな山本さんにも「こうあるべきだ」という考えがあったんだなと驚きもありました。

田中:先入観や思い込みのない人間なんて、実際は存在しないですよね。私もこれから、娘にそういうことがあったら、まずはわが身を振り返りたいと思いました。

杉山錠士
兼業主夫放送作家(シェおすぎ所属)。総合子育てポータル「パパしるべ」編集長。NPO法人ファザーリング・ジャパン会員。妻がフルタイムで働いている共働き家庭であることもあって、2008年ごろから家事・育児に軸足を置くことを決意。“兼業主夫放送作家”へ。現在も炊事や掃除など家事全般を担当し、17歳と9歳の娘を子育て中。
田中裕康
編集者。ライフハッカー[日本版]副編集長。週刊誌記者などを経て、2013年に日経BPコンサルティングに入社。2017年から日経BPに出向し、日経xwoman編集部(DUAL、doors)に所属。21年に退社、メディアジーンに入社し、現職。公務員の妻と2人の娘の4人家族。洗濯や掃除、子どもの外遊びなどは主に担っているものの、料理だけは完全に妻頼り。