2021年6月、育児・介護休業法の改正法が成立し、男性育休がより取得しやすくなりました。かつての「ママのワンオペ」が当たり前のように見られた時代から、少しずつですが着実に、「パパが主体的に育児する」時代へと歩みを進めています。

新型コロナウイルスによって働き方も見直され、それぞれの家庭が自分たちに合った家族の在り方を追求するようにもなりました。本連載では、そんな多様化するパパやその家族の今に迫ります。第4回は、東京都杉並区で法務の仕事をしている会社員、柏木尚さんの価値観が大きく変わった出来事について聞きました。

■今回のパパ
柏木尚さん 38歳
金融機関コンプライアンス 会社員

■家族構成
妻 37歳 学童保育スタッフ
長男5歳 次男2歳

「頑張ってもママには勝てない」という無力感

 家事は、やれるほうがやろう――。

 そんな家は、少なくないかもしれません。都内で2人の息子を育てている柏木夫妻も、そういうスタイルでした。しかし、コロナ禍による変化をきっかけに、夫婦の負担は大きく入れ替わることになるのです。

 互いに几帳面(きちょうめん)な性格で、仕事に対しても暮らし方に対しても共感する部分が多かったことから交際が始まり、14年に結婚した柏木夫妻。翌年に長男が誕生しました。結婚したら早く子どもが欲しいと話していた2人は、家事育児の分担についても事前に話し合っていたそうです。

 2人で決めたのは、「やれるほうがやる」、つまり家にいる時間の長いほうが家事育児の主担当になる、ということでした。当時は妻が専業主婦だったため、柏木さん自身は育休を取ることなく、妻が家事育児を主に担いました。柏木さん自身は、男性が育児をすることに抵抗感はなく、積極的に関わろうとしたのですが、いきなり壁にぶち当たります。

 「やろうとしても、ママじゃないと寝ない、ママじゃないと泣きやまない、ママじゃないとごはんを食べてくれない。子育てをする前は“育児は手をかければかけた分だけ応えてくれる”というイメージを持っていたのですが、そんな期待は無残に打ち砕かれました。子どもは好きだし、一緒にいて楽しいのに、こんなに思い通りにならないものかと、当時は無力感にさいなまれましたね」

 柏木さんは仕事で多忙な日々が続き、帰宅も遅い状況だったため、実際にできていたのはお風呂に入れることくらいだったそうです。一緒にいられる時間が限定的で、長男の信頼を得ることも難しかったのでしょう。

 ちょうどその頃、キャリアのステップアップを目指していたこともあり、子育てに理解があり、リモートワークが可能な現在の会社へ転職を果たしました。

 その後、妻も学童保育のスタッフとして働くようになり、共働きとなった後に第2子が誕生。このとき転職して間もなかった柏木さんは、育休取得の要件を満たしていなかったそうです。

 「現在の職場は育児に理解があるので、男性でも年単位の育休を取得している人が何人もいます。でも、たとえ取得できる状況だったとしても、当時の自分は長期の育休は取らなかっただろうと思います。それだけ、仕事のブランクや自分のスキルが落ちてしまうことへの恐怖感が大きかったですね」

 第2子出産後も、家事育児は育休中の妻が中心。食器洗いや洗濯、子どもの送迎などは柏木さんもするようになりましたが、あくまでサポートという感覚だったそうです。しかし21年1月、次男が保育園に入り、妻が育休から仕事に復帰すると、状況は一変します。