料理をすることで分かった妻の大変さ

 毎日食事を作るのが当たり前になった今では、「おそらく妻よりも冷蔵庫の中身を把握している」というほど、大きく変わった近藤さん。料理をするようになって、自分の中でどんな変化があったのでしょうか。

 「一番うれしいのは、子どもたちに『パパが作るとおいしい!』と言われることですね。苦労が報われる実感があるし、妻も認めてくれているので、とてもありがたいです。朝、始業時間の9時半までの時間を使って、朝食から準備などをイメージ通りにこなし、家族を誰一人待たせることなく食事を終えることができたときには達成感を覚えます。冷蔵庫のありものだけで作り切ったときもうれしいですね。もっと早く料理ができるようになっておけばよかった、と思うようになりました。

 そして、ここまで関わるようになって、ようやく妻が以前から自分に言っていた、家事をやってほしいという言葉の意味や伝えたかったことが分かるようになりました。家事の一つひとつにどれくらいの時間や手間がかかっているのか、やってみないと分からないですよね。

 料理一つでもやるべきことはたくさんあります。あの頃はつい言い返してしまっていましたが、今は素直に受け入れられるようになりました。

 最近、妻と話していて『ついに一人で生きていけるようになったね』と笑い合いましたが、本当にそう思いますね。やっと自立できたのかもしれません」

 近藤さんの妻からも、近藤さんが料理を始めた当時のことを聞きました。夫である近藤さんが慣れないながらも本当に一生懸命料理を作っていたので、細かいことは何も言わずに見守っていたそうです。今は「おいしい料理を作ってくれてうれしい」と素直に感謝しているといいます。

 ごく普通のご夫婦が、「家事」を通して心が通じ合った、とてもいいお話でした。

<パパライター&パパ編集 取材後雑記>

田中(編集):今回は家事に積極的ではなかったパパが、やらざるを得ない状況に追い込まれたことで逆に料理に目覚める、というお話でしたね。私も育児や掃除、洗濯はするのですが、料理はからっきしなので、純粋に近藤さんはすごいなと思いました。

杉山(ライター):うちは完全に料理は僕の担当ですよ~。ただ、僕の場合は子どもの頃から料理が好きで、実家にいる時からやっていたのでごく自然な流れでしたね。料理って本当に奥深くて楽しいですよ。田中さんもやればいいのに。

田中:善処したいと思います……(苦笑)。でも近藤さんは苦手だった料理を克服しても、そのことをことさらアピールしたりしないところがいいですよね。

杉山:そうですね。近藤さんは本当に腰が低くて、あまり家事に積極的ではなかった以前のことを心から反省している様子でした。「あの頃の私は本当にダメだった」「意識が及んでいなかった」「根気強く言い続けてくれた妻が変えてくれた」といった言葉のオンパレードで、前は言い返して険悪になっていた、というのが信じられないほどです。家事は必要だからやるものであって、やっているほうが偉いとかそういうわけではないとは思いますが、いずれにせよパートナーを思いやる心を持てるのは素晴らしいことですよね。

田中:家事って小さなことだと捉えられがちですが、取り組み方次第で自分の心構えまで変えられるんだということがよく分かりました。

取材・文/杉山錠士 編集/田中裕康 写真/本人提供

杉山錠士
兼業主夫放送作家(シェおすぎ所属)。総合子育てポータル「パパしるべ」編集長。NPO法人ファザーリング・ジャパン会員。妻がフルタイムで働いている共働き家庭であることもあって、2008年ごろから家事・育児に軸足を置くことを決意。“兼業主夫放送作家”へ。現在も炊事や掃除など家事全般を担当し、17歳と9歳の娘を子育て中。
田中裕康
編集者。ライフハッカー[日本版]副編集長。週刊誌記者などを経て、2013年に日経BPコンサルティングに入社。2017年から日経BPに出向し、日経xwoman編集部(DUAL、doors)に所属。2021年に退社、メディアジーンに入社し、現職。公務員の妻と2人の娘の4人家族。洗濯や掃除、子どもの外遊びなどは主に担っているものの、料理だけは完全に妻頼り。