多様な人材が活躍できる職場を実現するための「ダイバーシティマネジメント」を考える連載。星賢人さん(JobRainbow代表取締役CEO)に、上編に続き、企業がダイバーシティ施策に取り組むメリットや、LGBT(性的少数者)の当事者が企業で働く際のさまざまなハードルについて聞きます。

【上編】 コロナ禍 組織のダイバーシティが苦境脱出のカギに
【下編】 LGBT社員が働きやすい職場へ 求められることは ←今回はココ

LGBT採用を拡大したタクシー会社で起きたこと

―― 星さんは、「個になめらかな社会の創造」を目指して2016年にJobRainbowを創業し、現在、LGBTなど多様な求職者を対象とした求人サイトを運営するだけでなく、ダイバーシティに関する企業の研修やコンサルティングも行っています。企業は多様な人が働きやすい職場づくりについて、どのような悩みを抱えているのでしょう。

星さん(以下、敬称略):例えばある企業では、⾯接に来た求職者がレズビアンだと自ら話したところ、面接官が「レズなんですね」と言いました。「レズ」という略称を侮辱的な言葉と捉え、嫌がる人は多いのです。過去の失敗から危機感を持ち、対応を学びたいというニーズがまず存在します。

 一方で、働きやすい職場環境を整えて、生産性向上につなげたい、また、顧客にLGBTなどの当事者がいることを見越して、ビジネスマナーとしての適切な振る舞いを知りたいといった、前向きな相談も寄せられています。

―― 多様な人材が働く職場は企業にどんな良い点をもたらしますか。

星:人手不足解消という効果は確かにあるのですが、最も大きいのは、職場に新たな価値観がもたらされることです。ダイバーシティ採用の一環で、LGBTの採用を拡大した、あるタクシー会社では、LGBTの社員が生き生きと働く姿を目の当たりにして、他の社員たちの意識が変わり、外国人社員など他のマイノリティーへの受容度も高まったそうです。担当者は「社内に旋風が巻き起こった」と喜んでいました。他のマイノリティーの社員も安心し、力を発揮してくれるようになる側面もあるでしょう。

 電通ダイバーシティ・ラボの調査によると調査対象の8.9%、博報堂DYグループのLGBT総合研究所の調査によると10%が「LGBT・性的少数者に該当する人」との結果があることからも分かるように、当事者の声は新たな市場開拓に不可欠です。*電通の調査は2018年10月実施、全国20~59歳の6万人が対象。LGBT総合研究所の調査は2019年4~5月実施、全国20~69歳の42万8036人(有効回答者数 34万7816人)が対象。

JobRainbow代表取締役CEOの星賢人さん
JobRainbow代表取締役CEOの星賢人さん

 ある保険代理店はLGBT採用を積極的に進めた結果、LGBTの人が入りやすい商品を開発し、顧客の幅を広げました。小売業でも、新店舗にオールジェンダートイレを設ける際などに、当事者の意見が役立つでしょう。婦人服・紳士服の垣根を取り払った売り場づくりは、性別にこだわらない生き方を標ぼうする、ミレニアル世代(編集部注・1981~96年生まれで2000年以降に社会進出した、デジタルネーティブ世代の総称とされる)のニーズにも合致します。