1人のビジネスパーソンとして、「違い」を受け入れるしなやかさを保ち、自律したキャリアをつくるためにはどうすればいいか。下編は、「ダイバーシティマネジメント」が当たり前になる時代が来ることを念頭に、キャリア形成のために取り組みたいことについて、引き続き、法政大学教授の田中研之輔さんに聞いた。中3と小6の2児の父親でもある田中さん自身が重視する「マルチアイデンティティー」な子育てについても紹介する。

【上編】 ダイバーシティという言葉のイメージに潜む「わな」とは
【中編】 部下に「ライフ」見せる 新時代の管理職の覚悟とは
【下編】 「マルチアイデンティティー」な子育てのススメ←今回はココ

自分が「職場のローパフォーマー」化するリスク

 「35~45歳前後のミドル期に変われるかどうかが、人生100年時代を生き抜くための大きなカギとなります」と田中研之輔さん(法政大学キャリアデザイン学部教授)。ミドル期は、子育て真っ最中という人も少なくない年代。「狭間のミドル世代である皆さんへ伝えたいのは、『組織は、あなたのキャリアを守ってくれない』ということです」

 「日本の雇用制度を考えれば、解雇される可能性は低いですが、将来つまらなそうに仕事をする『職場のローパフォーマー』化するリスクはあります。経験をてこにして、新しい自分へと変わる力を身につけましょう」

 知識や経験、ネットワークが古くなっていくのに、そのまま逃げ切ろうという考え方はNGだ。田中さんは「慣れた仕事を続けて目先の安定を保ち続けるのではなく、5年後、10年後に向けたキャリア開発を続けることが必要です」と強調する。

 といっても、別の分野で「自分探し」を始めるのではなく、あくまで目の前の仕事を通じて成長することが大事だと田中さんは考える。「ビジネスパーソンの成長には『没入』が必要。たとえ退屈な会議であっても、終わるまでに必ず自分なりの提案をするなど、少し高めのミッションを自分に課すことで、頭がフル回転し、没入の状態を得ることができます」

 ビジネススクールに通ったり、副業を始めたりして、社外にネットワークを持つことも、「社会関係資本」として、組織に依存しないキャリアを築く力になるという。

 田中さんがもう一つ、これからのビジネスパーソンに不可欠な力として挙げるのが、変化への対応力「アダプタビリティ」だ。

 社会の変化が加速する中、過去に身につけた能力や価値観が通用しなくなることもある。「そんなときに柔軟に変化できないと、自分と違う価値観を受け入れられなくなってしまう。あなた自身が、ダイバーシティの阻害要因となってしまいます」

子育て経験はプラスに 他者への想像力も持てる

 「このように考えていくと、子育て経験はビジネスパーソンとしても、プラスになると思いませんか」と田中さんは問いかける。