日本企業におけるダイバーシティの重要性や、施策の進み具合などを見た上編に続き、今回は職場に多様性をもたらすための具体的なふるまい方について考える。法政大学教授の田中研之輔さんは、「多くの日本企業は、ダイバーシティを『マネジメント』ではなく、『コントロール』しようとしている」と批判する。これからの管理職に必要な考え方とは。

【上編】 ダイバーシティという言葉のイメージに潜む「わな」とは
【中編】 部下に「ライフ」見せる 新時代の管理職の覚悟とは ←今回はココ
【下編】 「マルチアイデンティティー」な子育てのススメ

「箱」から「個」へ、捉え方を変える

 「企業の多くは、社員を一元的に管理しようとしています」と、田中研之輔さん(法政大学キャリアデザイン学部教授)。例えば同じ「55歳男性」でも、Aさんはバリバリ働けるが、Bさんは介護に直面しているとする。本来2人のキャリアは分けて考えるべきなのに、同じ「箱」に入れてしまう。

 「大手企業の多くは、社員を『箱』単位で一元的にコントロールして安定した成果を出すことが『ダイバーシティ』だと考えています。これでは多様とは全く言えません」。そうした企業の多くは、時短勤務や介護休業といった制度ばかりを充実させ、制度利用者を職場の「エッジ」へと追いやってしまいがちだ。

 本当の意味でのダイバーシティ「マネジメント」とは、「社員一人ひとりに目を配り、多様な働き方の中から、最も適した選択ができるようサポートすること」。田中さんはそう説明する。

 一人ひとりを見てサポートすることは、一元的な管理に比べてはるかに労力や時間がかかる。だが田中さんは「これからの時代の管理職の仕事は、チームのコーディネーターとしてコミュニケーションを重ねることです」と強調する。

 この際に欠かせないのが、ビジネスだけでなくライフも含めて、部下のキャリアを見ることだという。「もし介護や子育てが、キャリアのブレーキになっているなら、『今後数年は大変な時期だから、可能なところはリモート勤務に切り替えよう』などと提案して本人のモチベーションを維持し、職場のパフォーマンス向上につなげるような考え方が大切になってきます」。近年、上司と部下の定期的な「1on1ミーティング」を導入する企業が増えてきたが、これも社員を個人として捉え、キャリア形成を支援する流れの一つといえる。

多様な働き方 自らロールモデルに

 また田中さんはこう指摘する。「病気の子どもの世話や親の介護をしている時に、自宅や介護施設などからテレビ会議に参加する、子連れ出勤する、などで管理職が自分の『ライフ』を部下にさらけ出すことも時には必要ではないでしょうか