仕事と育児を両立する共働き子育て世代。管理職になって部下を持ち始める人も少なくないかもしれない。経営トップや上の世代任せにせず、自分たち自身の手で、多様な人材が活躍できる職場を実現するには、どんな心構えが必要だろう。共働き子育て世代の目線で、組織の「ダイバーシティマネジメント」を考える連載。

まずはダイバーシティマネジメントの「そもそも」論について、法政大学教授の田中研之輔さんに3回に分けて聞いた。上編は、職場に多様性が求められるようになった経緯についてひもとく。

【上編】 ダイバーシティという言葉のイメージに潜む「わな」とは ←今回はココ
【中編】 部下に「ライフ」見せる 新時代の管理職の覚悟とは
【下編】 「マルチアイデンティティー」な子育てのススメ

「キャリアは自分で守って」 働き方の「主語」が組織から個人に

 「日本人の働き方が、歴史的な転換点を迎えていることを押さえておく必要があります」。田中研之輔さん(法政大学キャリアデザイン学部教授)は、ダイバーシティ経営が必要とされるようになった前提について、こう話す。少子高齢化、働き方改革の進展、終身雇用が限界を迎えたことが、その要因だという。

 政府が70歳までの就業を政策として打ち出し、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)ら経済界の重鎮からは「終身雇用を守るのは難しい」という趣旨の発言が昨年から相次いでいる。

 「政府と経済界の双方が、『組織にキャリアを預けず、自分で守って』というメッセージを労働者に発信し、さらに働き方改革によって、社員自身が働き方を選べるようにもなりました。この結果、働き方の『主語』が組織から個人に移りました」と、田中さんは解説する。

 少子化に伴う人手不足のなか女性や外国人、高齢者、障害のある人々らにスキルや能力を発揮してもらうことも不可欠となった。「能力も働き方も多様な個人を受け入れるため、組織の中に『しなやかさ』を作り出す取り組みが、ダイバーシティ経営です」と定義する。

企業が競争力を取り戻すには 職場のバウンダリーを緩める

 戦後の日本企業は、主に男性正社員による均質的な労働者集団を作り上げてきた。妻は専業主婦、夫が無制限に働けるサラリーマンという家庭内分業を前提に、残業ありきの勤務形態や単身赴任といった、海外からは特異に見えるような働き方も定着した。

 だが田中さんは「均質的な労働者集団の方が、多様な労働者集団よりも生産性が高いというのは、今や企業がつくり上げてきた便利な『神話』でしかありません」と断言する。同じような学歴を持つ男性が、同じ職場で何十年も出世レースを続ける。彼らは年齢が上がるほど疲弊し、レースに敗れた人が多数派を占めるようになる。レースに敗れた人は、当然モチベーションが低下する。