実は、中学2年生の時点で咲新さんは、ボート選手としての将来性が見込まれていました。有望な小・中学生を発掘し、オリンピックなどの国際競技大会で活躍できるよう育成するJOCエリートアカデミーへの推薦の話が、家族の元に舞い込んでいたのです。しかし、両親は「今それを伝えると、揺らいでどっちつかずになる」と考え、あえて伝えなかったそうです。あらゆるスポーツを経験させる一方、本人の納得がいくまで一つのスポーツをやり抜いてほしいという気持ちからでした。陸上をやめたのを見届けてからその事実を伝えると、咲新さんは、中学卒業と同時に地元を離れてエリートアカデミーに入校することを決めます。

スポーツ漬けの生活で身に付けた、時間を管理する力

2018年3月に行われた福井県での合宿にて
2018年3月に行われた福井県での合宿にて

 中学生時代を知る競技関係者から、咲新さんは「自律性の高い選手」と評価されています

 「中学のときは部活の帰りが遅く、車で迎えに行っていましたが、その車内で『今帰ると何時に家に着くから、お風呂に何時に入って……』と計画を立てて自己管理をしていました。15分もあればパッと勉強をするとか、そういう時間の使い方をするんです。これは僕にはまねできません。陸上では試合のスタート時間から逆算してアップをしますが、何時にどんなアップをするかを細かくノートに書いていましたからね」(幸治さん)

 ボートへの転向から1年が経過し、咲新さんは、オーストラリアやフランスなど海外遠征も経験しています。フランスでは1カ月間、現地の家庭にホームステイしながら練習に励みました。

 「悩んだり、打ちのめされたりした経験も、オリンピックという目標をつかむ糧となると考えています。自分の選んだ道なので思い切り、後悔しないように頑張ってほしいですね」(さおりさん)

 「もっと英語を頑張らないと、と思ったでしょうし、競技の面でも打ちのめされて帰ってきたと思います。オリンピックに出てほしい気持ちはもちろんあります。ただ、競技生活はずっと続くわけではありません。本人はセカンドキャリアも考えているようなので、そこも自分で決めてかなえていってほしいな、と思っています」(幸治さん)

福岡県タレント発掘事業の修了式で。母のさおりさん(左)、咲新さん(中央)、幸治さん(右)と一緒に
福岡県タレント発掘事業の修了式で。母のさおりさん(左)、咲新さん(中央)、幸治さん(右)と一緒に

取材・文/梅田梓