(3)不安なことや必要なことを家族で出し合う

(4)(3)で出たことのなかで「明確にできること」は調べて、「分かる領域」を増やす

「今回の場合、まだ分からないことも多いので、すべて調べるのは難しいかもしれませんが、『この不安については、今分からないけど、分かる領域になったら対応しよう』と家族で決めておくだけでも不安は緩和されると思います」

(5)過去の生かせる経験や活用できる資源を書き出す

「生かせる経験(例:夏休みのときの経験、前回留守番したときの経験)、生かせる資源(例:協力し合えるママ・パパ友、オンライン学習ツールなど)を書き出して、今回生かせることがないか探します」

(6)3月中の過ごし方について大まかな方針と計画を立てる

「(1)の大事にしたいことを軸に考えます。例えば、家族が健康でいることが大事なら、免疫力を下げないように、睡眠をしっかり取るという方針を決めます。そのためには、学校がある日と同じように早寝早起きして規則正しい生活をする必要がある、だから毎日7時に起きる、など家族で計画を立てます」

◆子どもに伝えるときのポイント
 計画を立てても、子どもがだらけている、予定通りに勉強をしないなどで、親が口うるさく言わなくてはいけない場面も出てくるでしょう。「怒りがこみ上げるかもしれませんが、『ダラダラしないで!』『勉強しなさい!』などといきなり怒鳴っても逆効果です。(1)で共有した、『大事にしたいこと』に立ち返り、『あなたの健康が大事で心配だから』『あなたが新しいことを学べる機会を失うのが心配』などの言葉を最初に伝えましょう」  

(7)計画を1週間試したら、家族で簡単に振り返って、次の週に生かす

「1週間たって、不安を感じたり、うまくいかなかったりした部分はどうすればうまくいくか、家族みんなで意見を出し合い、計画を調整します」

まずは親子で深呼吸、「笑えること」を探す

 そのほかに取り組めることはあるのでしょうか。「親子ともども、緊張状態になりやすい時期です。リラクゼーション法を親子で一緒に試すのはお勧めです。一番簡単なのが呼吸法。寝る前に親子で取り入れれば、睡眠の質の向上にもつながります」

(1)鼻からゆっくりと息を吸って肺からお腹まで気持ちよく空気で満たします
(2)今度は口からゆっくりと細く長く息を吐いていきます(吸ったときの倍の時間をかけて吐くイメージです)
(3)息を吐きながら、身体から力が抜けて少しずつほぐれていくのを感じます
(4)ゆったりとした気持ちで、(1)~(3)を5回ほど繰り返します

 学校に行けない、出かけられないと、子どももストレスがたまります。「ダメダメ一辺倒ではなく、新しい遊びなど、子どもが家で楽しめること、笑えることを一緒に探してみましょう。楽しい気持ちでいたり、笑ったりすることは、今の状況ではとても大事です」

 さらに、見過ごされがちなのが親自身のセルフケアです。「とにかく無理をしない、こまめに休憩する。こんなときだからこそ、大好きな○○を食べる、いい香りを楽しむ、など慣れ親しんだ自分のストレス軽減法があれば、積極的に取り入れるといいですね。また、心理学で最近研究が進んでいる『セルフコンパッション』も大切です。自分に思いやりを向けるという意味で、『今の状況下で、自分は十分に頑張っている』と常に自分をねぎらう気持ちを持つようにするといいです」

 最後に、こんなアドバイスも。「大変な時だと思いますが、非常時こそ、相互尊重(礼儀正しさや、敬意、お互いにねぎらい合うこと)を大切にして、言葉で表現し、行動でも示したいものです。人は緊急事態モードになると、怒りが先に出て、『○○のせいだ』『○○が悪い』などと、人を責めるほうへ傾きがちです。ですが、こんなときだからこそ、家庭内はもちろん、会社、学校や店などの社会において、自分の持ち場で一生懸命やっている人に対して敬意を表して、ねぎらいの言葉をかけ合ってほしいです。親のそんな姿勢を子どもは見ていますし、それが、回り回って家庭内にも影響してくると思います」

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取材・文/小林浩子(日経DUAL編集部) 写真/PIXTA


関屋 裕希(せきや ゆき)
東京大学大学院医学系研究科
精神保健学分野 客員研究員

関屋 裕希(せきや ゆき) 博士(心理学)。臨床心理士。公認心理師。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演・執筆を行う。中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、1万人以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。HP