上げ膳据え膳で食事を部屋まで届けたり、腫れもの扱いしてリビングルームを譲ったりせず、以前と同じ接し方を心がけるのです。

 また「自分がひきこもったのは、好きなスポーツをさせてもらえなかったからだ」などと、子どもに恨みをぶつけられても、すべて真に受けて言いなりになるのは禁物だといいます。「もちろん親も子育てをする中で間違ったことがあるかもしれません。しかしひきこもりを長引かせないためには、子どもに支配されず、『はいはい』と受け流すことも重要です」

 虐待などがあれば別ですが、ひきこもりは多くの場合、家庭の内外でさまざまな出来事が積み重なり、本人が持ちこたえられなくなった時に起こります。「子どもは、ひきこもったのが100%自分のせいだと思うと、罪悪感や苦しみに耐えきれません。親に責めを負わせようとするのは、当事者が自分の精神を守るための生存戦略でもあるのです。子ども本来の姿ではなく『症状』と考えたほうがいいでしょう

親世代と子世代の環境の違いも知って

 石井さんは「子ども世代の生きる環境が、親世代に比べて厳しさを増していることも、肝に銘じる必要がある」とも話します。

 「今日より明日は良くなるという右肩上がりの経済を、多少なりとも経験した親世代と、人口減少や高齢化、就職難に直面する子ども世代とでは、子ども自身の社会への期待度も環境の厳しさも、全く違うのです」

 ある時「うちの子は能力があるのに、どうして働けないのか」と嘆く父親に、石井さんは「それなら、あなたの勤務する会社で雇ってみては?」と提案しました。すると父親は「それは無理です」と即答。現代社会を生きる子どもが、いかに厳しい状況に置かれているかを客観視できるようになったといいます。

 NPO職員やボランティア、中小企業の経営者といった、なるべく多彩な「大人」の姿を見せることも、子どもが外の世界で楽に生きられるようになる一つの方法だと、石井さんは考えています。