石井さんは、子どもになるべく多彩な経験をさせて、多くの「好き」をつくること、つまり「文化資本」を提供することではないか、と提案します。昆虫採集や山歩き、アニメやアイドルなど、分野は問わないといいます。

 「文化資本が豊かな人は、外の世界でやりたいことが多いのでひきこもりにくいし、ひきこもっても『推し』アイドルのライブに行きたいなど、外に出やすくなります。外に出てからも、趣味の話題などがあれば他人とのコミュニケーションを回復できます」

 不登校になっても、例えば釣りざんまいの生活を送れば、釣りのスキルや魚に関する知識を蓄積できます。「昨日よりも少し成長し、新しい知識が増えたと実感することで生活の質(QOL)を高められます。それが外に出やすい環境をつくり出し、ひきこもりへの移行や長期化を防ぐことにもつながります」

写真はイメージです
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ひきこもりは社会全体で解決すべき問題

 しかし、親が豊富な文化資本を与えたとしても、いじめのトラウマや発達障害などによって、生きづらさを抱える人もいます。

 また、貧困家庭の子どもは、「文化資本」がどうしても乏しくなってしまいます。このため貧困も、ひきこもりを生む要因の一つだと、石井さんは指摘します。「実は費用を捻出できないからなのに、表向きは『つまらないから行かない』などと言って修学旅行を欠席する子どももいます。貧困家庭で、習い事や旅行などの経験が圧倒的に少ないと、友人と共通の話題が乏しくなり、語彙力や共感力、意思を伝える力が育ちにくい傾向がみられます」

 だからこそ、ひきこもりを各家庭の「自己責任」として片付けるべきではないと、石井さんは強調します。「ひきこもりは行政による福祉の枠組みを中心に、社会全体で解決すべき問題なのです

ひきこもったら…家庭の「パワーバランス」を崩さない

 石井さんは、もし子どもがひきこもったら「親は家庭内のパワーバランスを、なるべく崩さないほうがいい」とアドバイスします。