後藤さんはまず、好きだった文章を書いてみようと、体験をつづったブログを立ち上げました。不登校経験や生きづらさを題材にするシンガーソングライター、風見穏香さんの歌に感動し、地元に招いてライブも企画しました。

ラジオのパーソナリティーを務める後藤さん
ラジオのパーソナリティーを務める後藤さん

 ライブを宣伝するためラジオ局に行くと「不登校やひきこもりについて発信する番組を作らないか」と誘われ、ラジオ番組のパーソナリティーに。「笑いのたねプロジェクト」という任意団体をつくり、ひきこもり当事者の「居場所」となる集まりもリアルな場で開くようになりました。最近は親を対象とした「オンライン相談室」も始めています。後藤さんの姿は海外メディアにも取材され、世界に発信されました。

 「自分の足で歩き始めたとたんに、周りに多くの人が集まり、助けてくれるようになったのです

私の笑顔は息子のおかげ 「そのままでいい」苦しむ親へ伝えたい

 後藤さんは最近、子どものひきこもりについて苦境を訴える、ある母親からのメールに「そのままで大丈夫ですよ」と返信したといいます。「私が悩んでいる時、一番言われたかった言葉です。親が安心し、気持ちに余裕を持つことで、子どもにも少しずつ『生きているだけでいい』というメッセージが伝わり、少しずつ家が明るくなっていきます」

 一方、次男もここ数年は夏場、製茶工場でアルバイトとして働き、精神・知的障害者らの通う多機能型事業所に通所しています。さらに最近は編み物を始め、編みぐるみやバッグなどを販売するようになりました。

次男の編んだバッグやキャップ、編みぐるみなど
次男の編んだバッグやキャップ、編みぐるみなど
次男の編んだバッグやキャップ、編みぐるみなど

 ここまで来るには紆余曲折(うよきょくせつ)もありました。後藤さんが次男に「○○に行ってみない?」と提案しても、「はいはい」と受け流されたり、断られたりしたこともしばしばあります。それでも「他人なので、彼の気持ちは分からない」と割り切り、役に立ちそうな情報を淡々と伝えています

 後藤さんは、不登校やひきこもり時代のつらい経験も、「あの苦しみがあったからこそ、今の二人がある」と考えています。「幸せとはお金や学歴、就職先ではなく、心から笑顔でいられることだと、息子が身を削って私に教えてくれました。そして今、次男の笑顔のおかげで、私も笑顔になれるのです」

イメージ写真
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取材・文/有馬知子 写真提供/後藤誠子 イメージ写真/PIXTA