ひきこもり当事者を持つ親たちは、どんな思いでいるのでしょうか。また子どもたちとどのように接しているのでしょうか。親の立場から「ひきこもり」を考える連載。

ひきこもり当事者は、やり場のない思いを家族への暴力という形で表してしまうこともあります。都内に住む和江さん(仮名、59歳)は、長男(29歳)のひきこもりと暴力に苦しみました。和江さんは「ボタンの掛け違いを直すのは難しいかもしれない」と悲しみと諦めの気持ちをのぞかせる一方で、「私たち親子が多くの人から受けた恩を返したい」とも話します。

仕事が忙しい夫は成績以外に関心を示さず……

 和江さんが最初に長男の異変に気づいたのは、保育園時代でした。

 「お迎えに行くと、彼が白目をむいていたんです」

 自分の意思によらずに顔の筋肉が動く「チック」の症状でした。親子は小児精神科医を受診し始めます。この医師は親子にとって重要な存在となり、和江さんは現在も連絡を取っています。

 小学1年生の授業参観の時、長男は机の上に片足を掛けて座っていました。先生に注意されると戻りますが、また足を掛けてしまいます。驚いた和江さんが相談すると、医師は言いました。

 「お尻に汗をかくから、足を上げて乾かしてまた座っているんだね」

 「一見理解できない行動でも、理由が分かるとやみくもに怒らなくてすみました」と、和江さんは振り返ります。

 父親は仕事が忙しく、息子についても成績以外には関心を示しませんでした。たまの休みに、親子でキャッチボールに行っても「どうしてできないんだ」と怒り出し、30分もしないうちに帰ってきます。「やぶ医者」などと、医師やカウンセラーも見下しました。このため長男のサポートは、和江さんが一手に引き受けることになります

 長男は成長とともにチックも収まり、中学では部活の部長を務めるなど、充実した生活を送ります。成績も良く、高校は進学校へ入学しました。しかし徹夜で大量の宿題をこなさなくてはならないような、高校のスパルタ学習は、全く合いませんでした。不登校気味になるなど、彼の精神状態は再び下降し始めます。